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◆第139回芥川賞受賞作家

2009-07-24 20:32:52 筆者:admin06 出処:日中新聞社 回数をブラウズします:0 ネット友達から評価 0 箇条

楊逸氏、講演会開く
受賞作「時が滲む朝」を語る

(リード)

 さる4月21日、川崎市中原区の新中原市民館・多目的ホールにおいて、第139回芥川賞受賞作家である楊逸氏による講演会が開かれた。氏の受賞作である「『時が滲む朝』を語る」と題し講演されたもので、新中原市民館の移転・開館記念事業の一環。当日は平日にも係わらず多くの聴衆が出席、軽妙洒脱な楊逸氏のトークに熱心に耳を傾けていた。講演後に行われたサイン会も長蛇の列ができ、楊氏は一人一人丁寧に応対、にこやかにサインを記していた。

(見出し)

今語られる受賞作への思い

開館記念事業に花添える

 

最後まで読まれる作品作り

タイトルが意味する心情は

(本文)

 さる4月1日、川崎市・新中原市民館は移転を終え、新たな施設として活動を再開した。

 昭和46年(1971年)の開館以降、30余年活動してきた市民館は、施設は老朽化にくわえ、すでにあった施設を流用したことから、各種設備の陳腐化も進んでいた。JR並びに東急田園都市線・武蔵小杉駅周辺の再開発事業とあわせ現施設の移転が計画され、今回、新施設での活動がスタートした。同館では4月11日より29日にかけて「開館記念事業」を企画・開催しており、4月21日に開かれた「楊逸氏講演会『時が滲む朝』を語る」もその記念事業の一環だった。

 川崎市教育委員会中原市民館主幹である池谷典彦氏は講演会開催の経緯について「川崎市は市の理念の一つに『多文化共栄』がある。川崎市では市に住まう外国人の利便性向上、生活のしやすさに向けて各種パンフレット、ニューズレターを発行するとともに、日本語を学ぶ機会も広く設けている」

 「当市民館でも長らく日本語学習のサークル、私どもは『識字学級』と呼んでいるが活動を続けてきた。今回開館記念事業を考える中で、外国人による日本観がテーマの一つにあったことから、楊逸氏の講演会へと発展していった」と語る。

 楊逸氏は中国の黒龍江省・ハルピンの出身。1987年に留学生として来日。御茶ノ水大学を卒業後は在日中国人向けの新聞社を経て、現在は中国語教師として活動。2007年に『ワンちゃん』で第105回文学界新人賞を受賞。受賞後第1作となった「朝が滲む時」で2008年、第139回芥川賞を受賞した。芥川賞を日本語を母国語としない作家の作品が受賞するのは楊逸氏が初めて。このほど、関東学院大学の客員教授としても活動を開始したという。

     ◇

 真新しい多目的ホールの舞台に立った楊逸氏は開口一番「あいにくの雨の中、皆さん足を運んでいたたき誠にありがとうございます」と聴衆に向けて感謝の言葉を述べた。

 楊氏は自身のプロフィールに簡単に触れるとともに、自分がいかに文学、小説を書くに至ったか、経緯を紹介した。

 長らく中国語の講師を務めていた氏だが、余暇が増えたことを契機に文筆活動に入り、最初の著作である『ワンちゃん』を一気呵成に書上げる。

 「折角書上げた作品なので、何か形にしたいと思い、応募先などを色々探したけれど、なかなか見つからない。本来、書く前に考えておくべきことだったが、私の性格、後のことは何も考えずに取り組んでしまうものだから。ただ、日本の文芸誌は、未発表作品の投稿を受け付けない傾向があり、2年くらい、そのままの状態が続いた」「ある時、図書館で『文学界』で新人賞の受付を始めたことを知り、ダメもとで応募した(笑)。半年くらい過ぎて、私自身も忘れかけたころ『最終選考に残っている』と連絡を受け、『もし受賞したらどうしよう』『でも受賞しなかったら…』などと生きた心地がしなかった」

 しかし結果は第105回文学界新人賞を受賞。この『ワンちゃん』という作品は、第138回芥川賞の候補にもあがる。

 「新人賞の受賞は、今にして思えば私の人生の中でもっとも嬉しい出来事であり、そして大きな転機となった」「これで私は『次も書けるぞ~』と。そこで私はこの『次』の構想を練り始めた」と楊逸氏は語る。

 第139回芥川賞を受賞した「時が滲む朝」は、天安門事件に係わった人々の、時間・環境ともとに変化していく心・生き方を丁寧に紡いだ作品だ。

 しかし、当初の構想は「何を書こうか、色々と考えた時、『日本語で書くのだから読者は日本の人々』そして『読み始めたら、最後まで読んでいただける作品』でありたい。やはり『日本人に密接するテーマ』で書こうと思った」「そこで『国際結婚』。そして、より多くの人々が係わる『結婚仲介人』としたら面白くなる、と考えた」。

 ただ、楊氏は「天安門事件のごろ、すでに私は日本へ留学しており詳しいことは解らなかったが、その活動の熱さだけは遠くにいた私にも伝わってきた」「中国の文学は伝統的に政治に係わるお話が多い」「孔子の時代より中国では物事の価値基準は『シロ』か、『クロ』か、はっきりさせる傾向がある。『君子』と『小人』など。けれど、私は今までの経験の中で、世の中でもっとも多いのは、君子ではないけれど、小人でもない人々であり、シロでもクロでもない灰色なのではないか、と思っている」と語り、自身が作品の中で目指した方向性の一端が示された。

 講演後に設けられた質疑応答の時間では、自著「時が滲む朝」というタイトルに込められた意味について、会場から尋ねられると楊氏は「人は経験を経て物の見方が変っていく。例えるなら、高いビルで、2階から見た風景とその上階から見た光景は似ているようで違う」「前夜、どんなに悩んだり、悲嘆したりしても、朝を迎えるとなぜかすがすがしい気持ちになる。またがんばろう、という気持ちになるし、私自身大変好きな時間でもある」と語った。

 また「日本という社会を例えると」との問いに対して楊氏は「私もまだ、全てを理解したわけではないけれど…」と断った上で「『常識の社会』ではないだろうか。日本の人たちは誰に教わったわけではなく、皆が共通の価値観、常識を持ち日々の生活を営んでいる。そこから協調性のある社会が作られているように思う」と語った。

 

 

写真

講演する芥川賞受賞作家楊逸氏

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