森のようちえん育つ
2016-05-23 10:05:20 From:日本経済新聞 コメント:0 クリック:
「魔法の粉、いるひと~」。両手で砂を大事そうに運ぶ女の子。木登りする子や穴を掘る子。あちこちにできた数人ずつの輪を、スタッフがさりげなく見守る。
NPO法人「響育の山里くじら雲」(長野県安曇野市)が同市で運営する保育施設「くじら雲」は平日午前9時から午後2時まで2~5歳児23人を保育している。民家を改修した園舎はあるが、基本は屋外活動だ。
自由に遊んだ後は弁当を持って小遠足。代表の依田敬子さんと「秘密の道」をたどると、北アルプスが眼前に広がる。毛虫を見つけたりツツジの花蜜を吸ったり。子どもたちは次々と発見する。
身につく主体性
「子どものペースで保育できれば」。給食や昼寝の時間が決まっていた保育園に勤めていた依田さんはそう思い06年にくじら雲を開いた。「自分を生きる力を育む」を教育理念にする同園では、子どもが味噌汁の野菜を包丁で切ったり火の番をしたりする。「主体的に取り組むところに成長がある」と依田さん。
松本大学との共同研究では、くじら雲の子どもたちは5時間で平均8000歩を歩き、足裏が育って姿勢がいいという。「体力がついて昼寝をしなくなった」。保育3年目の志緒ちゃん(6)の母、五明みち子さんは娘の変化をこう話す。
一般社団法人「森のようちえん ぴっぴ」は同県軽井沢町に所有する森が拠点だ。冬は氷点下15度にもなるが、防寒着の子どもたちはソリなどで平気で遊ぶ。雨の日も雨がっぱを着て森を走り回る。読み書かせや劇遊びもあり、2歳の女の子が友達を追いかけて平気で森の中へ入っていく。
「玩具はないので、森の中に入ってみんなで道具を探し、分け合う。工夫する力がつく」と代表の中澤眞弓さん。けんかをしてもスタッフが介入せず子どもたちで解決する余裕がある。
「親も一緒に育てられている」と話すのは、息子の悦己くん(3)の入園のため東京・目黒から同町に昨年越してきた米田典子さん。同園は毎月2回開放日を設け見学者を受け入れており、今年の入園者7人のうち首都圏出身者は6人に上る。
自然保育の成果を測るのは難しいが、山口美和・長野県短期大学准教授は「森の中で生命と触れ合う機会が多く生死への畏敬の念が生まれる。一人ひとりが他の子どもたちをよく見て気遣いあって生活している」と話す。
県が運営費補助
幼児教育が本来あるべき姿を模索している経営者が多い。ただ自然保育は資金面や人材面から運営が難しく、継続が課題だ。そこで支援に動き出す自治体も出始めた。
長野県は2015年度から信州やまほいく認定制度を導入した。「新しい子育てスタイルを県内外に発信し移住にも結びつけるのが狙い」(次世代サポート課)。初年度は週15時間以上、屋外体験活動をするなどの条件を満たす「特化型」7園、同5時間以上の「普及型」65園を認定した。
認定を受けると研修会への参加や専門家の派遣などの支援を受けられ、安曇野市は18の公立保育園すべてが認定を受けた。19年度までに全県の3分の1にあたる230園程度の参加を目指す。
補助制度を導入したのは鳥取県だ。15年度に認証制度を創設し、1クラス3~12人の場合、1人月額2万8450円の運営費補助などが受けられる。三重県は15年度に野外体験保育の有効性調査を実施し「体験が多いほど自己肯定感が強い」ことを確認した。今年度は普及啓発に力を入れる。
山口准教授は「既存の幼稚園や保育園にも現状でいいのかという悩みがある」とし、「幼稚園教育要領や保育園保育指針を柔軟に読み替え、本来あるべきものを目指す突破口に、森のようちえんがなればいい」とみる。
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