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外国人労働者問題の視点(中)高度人材生かす人事管理を
2016-06-22 09:42:51   From:日本経済新聞   コメント:0 クリック:

  日本の外国人労働者受け入れ政策は、主に専門的・技術的職業に携わる人、中でも高度人材をターゲットにして進められてきた。本稿では、高度外国人材受け入れの現状と課題について考えたい。

 1990年代後半から先進国を中心に高度人材の需要が高まり、高度外国人材を積極的に呼び込む政策が導入されてきた。英国やオーストラリアのように外国人の選別や雇い主の責任を強める国もあるが、高度外国人材を歓迎する基本的な政策は続いている。

 背景には、知識基盤社会の到来、情報通信技術の発達、経済のグローバル化で特定の専門的・技術的職業への需要が増えたり、海外事情に精通した人材が求められたりするなど、国内の労働力需要の構造変化に供給側が早急に対応できないという事情がある。

 さらに高度外国人材の場合には、もっと戦略的な意味合いがある。海外から優秀な人材を集めイノベーション(革新)を起こし、経済成長や国の競争力の強化をはかりたいという意図が、世界的な人材獲得競争につながっている。

 21世紀以降の新興国の躍進を目の当たりにしながら、経済成長の鈍化に苦しむ先進国がイノベーションに寄せる期待は大きい。知識創造の基本は、これまでつながりのなかった知識の新しいコンビネーションをつくること(知識の新結合)である。海外の高度人材には、新しい知識を国内に持ち込むことや、海外とのネットワークを活用して海外から新しい知識を適宜吸収し、知識の新結合に貢献することが期待されている。

 さらに外国人を雇用することにより生じる人材の多様性が、職場を活性化し、新しい視点や発想をもたらす効果にも期待が寄せられている。

 例えば日本では「日本再興戦略2015」において、優秀な外国人材の獲得競争が世界的に激化する中で、さらなる経済活性化と競争力向上のため、海外の優秀な人材の呼び込みが不可欠との認識が示されている。IT人材の不足への対応や、海外の最新の知見と国内トップレベルの知見の融合によるイノベーションを誘発するのが狙いだ。

 同様に、様々な国で高度外国人材の受け入れを促進する政策がとられてきた。日本のスタートは米英にやや後れを取ったが、21世紀に入ってからはIT技術者や研究者を対象に、在留資格(永住権を含む)の取得要件の緩和、在留期間の延長、活動制限の緩和などの措置がとられてきた。

 中でも2012年のポイント制導入と、それを発展させた高度専門職1号、2号という在留資格の創設(15年)は目玉となる政策だ。高度な学術研究、専門・技術活動、経営・管理活動をする外国人を対象に、学歴、職歴、年収の項目ごとにポイントを設け、合計70点以上に達した人を高度人材外国人と認定し、在留期間と在留活動などに関する優遇措置を与えるものだ。

 さらに「日本再興戦略2016」では、高度外国人材の永住許可申請に必要な在留期間を大幅に短縮する方針が示された。しかし長年の取り組みにもかかわらず、日本に来る高度人材は今なお少ない。

 高度人材についての世界共通の定義はなく、国際比較にあたっては学歴や職業を基準に統計をとることが多い。経済協力開発機構(OECD)によると、10~11年に加盟国が受け入れた高等教育修了の移住者総数のうち、米国に40%、英国とカナダにそれぞれ11%ずつ移住している。これら上位3カ国の顔ぶれは10年前と同じだった。高度人材の最大の受け入れ国は米国だが人口も多いため、高等教育修了者に占める外国人の割合はオーストラリア、カナダ、英国の方が高い(表参照)。

 注目すべきは、高等教育修了者に占める外国人の割合が欧米先進国は10%を超える中で日本は1%にとどまることだ。日本の高等教育修了者の移住率も相対的に低い。

 日本に来る高度人材が少ない理由として、地理的な特異性、歴史的な経緯、言語の問題などが関与していると思われる。それよりも注目すべきは、かつて民間企業が外国人雇用に消極的だったことだ。

 日本では高度外国人材を積極的に受け入れるための国の政策が先行し、少なくとも00年代前半までは雇用主の需要自体がそれに追いついていなかったように見受けられる。米国では外国人IT技術者などの雇用を増やせるように、ビザ(査証)のキャップ(上限)拡大を巡りロビー活動が展開されたのとは対照的だ。

 日本でも00年代以降、海外直接投資が拡大するにつれて、海外業務や海外現地法人との連携が増えたほか、海外市場拡大戦略も加わり、民間企業で高度外国人材の採用に関心が高まりつつある。研究機関でも、低迷する日本の科学技術活動を活性化したり、研究ネットワーク構築の遅れを取り戻して国際的連携を拡大したりするため、海外から優秀な研究者を採用する必要性が高まっている。

 こうした状況を踏まえて、以下では日本の残された課題について言及したい。

 第1に民間企業か公的研究機関かを問わず、高度外国人材を雇用する組織の人材マネジメントの問題が挙げられる。日本的雇用慣行と呼ばれた従来の人事管理制度と仕事の方法が、海外の高度人材にはなかなか受け入れられず、その変更・修正が求められている。特に評価・昇進基準の明確化や、適切な基準に基づく報酬と評価のフィードバック(本人への通知と承認)が実施されなければ、高度人材を活用しきれない。

 高度人材は自分の能力に自信を持っており、しかもその能力を高めるために人的資本投資に力を入れてきた人が多い。必ずしも長期勤続を前提とせず就職している外国人の能力や仕事の成果を短期間でも正当に評価し、限られた雇用期間内に最適な仕事の割り当てと評価に見合った報酬を与える制度が求められる。

 また日本流のあうんの呼吸や暗黙の慣行は通用しない。仕事内容と権限・責任の範囲の明確化や、これまで当たり前とされてきたことの再考も必要だ。さらに、多様な人材から成るチームを統率できるリーダーの育成も課題だ。

 第2に日本人が異文化や国際社会への理解を一層深めることも課題だ。イノベーションは高度外国人材だけでなしうることではない。日本人の知識ベースを高度化・多様化し、高度外国人材の知識ベースと部分的にオーバーラップ(重ね合い)させなければ共同でイノベーションを起こしていくことは難しいだろう。

 前述のように、日本の高等教育修了者の海外移住率は低い。海外の高度人材を受け入れるだけでなく、日本人が異文化経験を積むべく、若者の留学を促進するなど双方向型の国際移動政策が重要だ。

 第3に高度人材の生活者としての側面に目を向ける必要がある。日本ではワークライフバランス(仕事と生活の調和)の「ライフ」の部分は軽視されがちだが、その充実こそ職場環境とともに、高度外国人材が日本に来て働くインセンティブ(誘因)となる。

 住宅、医療、子供の教育、配偶者の就労の問題だけでなく、地域社会での共生に多くの課題が残されており、自治体と地域住民の共同の取り組みが欠かせない。訪日外国人旅行者の急増を受け外国人向けサービスが拡大している。この流れが観光を超えて外国人の就労と居住に影響を与えていくと予想される。

〈ポイント〉
○かつて民間企業は外国人雇用に消極姿勢
○短期の雇用でも正当な評価や報酬が必須
○地域社会での共生に自治体や住民協力を

 

 むらかみ・ゆきこ 早稲田大博士(経済学)。専門は労働経済学、イノベーション研究


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