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萎縮する祭り 動員250万人「青森ねぶた」の異変
2016-08-01 15:14:18   From:日本経済新聞   コメント:0 クリック:

昨年は祭りの収支が赤字に転落した。

日本最大級の祭り、「青森ねぶた祭」が今年も2日から開催される。6日間の観客動員数250万人を見込む大イベントだが、足元では異変が起きている。観客数や踊り手の激減に加え、昨年は祭りの収支が赤字に転落した。祭りへの規制強化、排他性に内輪もめ――。背景を探ると、「ねぶた」にとどまらない日本の祭り全体の危機が見えてきた。 

約250万人を集めた2015年8月の「青森ねぶた祭」。だが動員数は年々縮小している(青森市)

約250万人を集めた2015年8月の「青森ねぶた祭」。だが動員数は年々縮小している(青森市)

■経済波及効果は238億円

 しかめ面の大男の「ねぶた」。それを囲むように、原色の鮮やかなたすきをつけた「ハネト」と呼ばれる踊り手数百人が声を張り上げる。「ラッセラー!」――。6月25日の夕刻、青森市。ねぶた祭りが本番より1カ月以上早く、一般にお披露目された。青森市や仙台市などの東北6自治体が主催する「東北六魂祭」だ。

 青森市は幅9メートル、高さ5メートル、重さ4トンの大型ねぶた3台とハネトら500人を用意。パレードでしんがりをつとめた。和紙、針金、電球、そして木組みからできるねぶたは大人の男性20人程度が引く台座にのりながら迫力満点だ。

「8月のねぶた祭はこんなものじゃない」。ねぶた祭の主催団体の青森観光コンベンション協会(青森市)の奈良秀則会長は、こう話す。8月2日からの本番では、人口約29万人の青森市に、6日間で延べ約250万人が集まる。祭りのクライマックスである6日には、大型ねぶた22台とハネト2万人以上が青森市内を練り歩く。

 山形市のシンクタンク、フィデア総合研究所の斎藤信也主任研究員は、「青森経済にとって青森ねぶた祭はなくてはならない」と話す。日本銀行青森支店の2007年の調査でも、宿泊施設や飲食店、交通機関などへの経済波及効果は238億円と試算。青森市の14年度の歳入が約1300億円であることからも、祭り抜きには青森は語れない。

 だが、一見活況を呈するねぶた祭の足元では異変が起きている。

■20年で3割減少

 ねぶた祭の観客動員数はここ数年で激減しているのだ。15年の動員数は、主催者発表で260万人。ピークだった1997年(380万人)から約3割減った。収支も、11年の東日本大震災以降で初めて赤字に転落した。団体旅行客の減少で、祭りの主要な売り上げである有料観客席の販売が激減した。

 江戸川大学の阿南教授は「祭りの非日常感が薄れている」と指摘する(千葉県流山市で)

 江戸川大学の阿南教授は「祭りの非日常感が薄れている」と指摘する(千葉県流山市で)
ねぶた祭を20年近く研究してきた江戸川大学の阿南透教授は、「祭りが『きれい』になってしまった。非日常感が薄れ、地元の人が冷めている」と分析する。

 きっかけの一つが01年に青森県が施行した迷惑行為防止条例だ。条例は、祭りの最中の「迷惑行為」に関する禁止事例を明記。花火の打ち上げや、モノを投げる行為を禁止した。暴力行為を働く「カラスハネト」と呼ばれる黒装束の半グレ集団への対策だった。

 90年代のバブル崩壊とともに急増したカラスハネトは多い年には、6日間で1万人を超し、カラスハネト同士のけんかで、割れた一升瓶の破片が観光客を傷つける事件も発生していた。01年に条例が施行されてからは、暴行などの現行犯逮捕も増加。送検にいたる事例も増え、カラス族は急減した。

 一方で、それが祭りの熱気をそいでいるとの声は多い。「昔は『カラスがみられますか』っていう観光客に『私がやりましょうか』なんて言ったものですけどね」。市内のタクシー運転手、佐藤善哉さんはこう振り返る。観光客の多くはカラスハネトの騒ぎぶりに非日常を感じ、それを楽しみにもしていたという。

 祭りの規制強化に追い打ちをかけるのが、2001年7月に発生した「明石の花火大会事件」だ。兵庫県明石市で、花火大会の見物客が混雑した歩道橋で折り重なって倒れ、子ども9人を含む11人が死亡。明石警察署の幹部は、いったん不起訴になったあと、検察審査会の議決によって業務上過失致死傷の罪で起訴された。

 コンベンション協会の林慶一事務局長は、「事故以来、警察の祭りへの締め付けが全国的に厳しくなった」と語る。東京・高円寺の「東京高円寺阿波おどり」事務局の冨沢武幸事務局長も、「運行マニュアルの厳密化、誘導員の確保などが精査されるようになった」と話す。何か新しい取り組みをしようにも、その都度警察に細かな説明を求められるため、主催者が萎縮している構図だ。

 だが実は、別の見方もある。ねぶた祭りの踊り手であるハネトの交流団体「跳龍会」の会頭、後藤公司さんは、「主催者たちは事なかれ主義だ。祭りを盛り上げることではなく、いかに何も起こらないかしか考えていない」と主催者の姿勢を非難し、こう指摘する。「規制だけが祭りの衰退の理由じゃない」

 ねぶた祭を20年近く研究してきた江戸川大学の阿南透教授は、「祭りが『きれい』になってしまった。非日常感が薄れ、地元の人が冷めている」と分析する。

 きっかけの一つが01年に青森県が施行した迷惑行為防止条例だ。条例は、祭りの最中の「迷惑行為」に関する禁止事例を明記。花火の打ち上げや、モノを投げる行為を禁止した。暴力行為を働く「カラスハネト」と呼ばれる黒装束の半グレ集団への対策だった。

 90年代のバブル崩壊とともに急増したカラスハネトは多い年には、6日間で1万人を超し、カラスハネト同士のけんかで、割れた一升瓶の破片が観光客を傷つける事件も発生していた。01年に条例が施行されてからは、暴行などの現行犯逮捕も増加。送検にいたる事例も増え、カラス族は急減した。

 一方で、それが祭りの熱気をそいでいるとの声は多い。「昔は『カラスがみられますか』っていう観光客に『私がやりましょうか』なんて言ったものですけどね」。市内のタクシー運転手、佐藤善哉さんはこう振り返る。観光客の多くはカラスハネトの騒ぎぶりに非日常を感じ、それを楽しみにもしていたという。

 祭りの規制強化に追い打ちをかけるのが、2001年7月に発生した「明石の花火大会事件」だ。兵庫県明石市で、花火大会の見物客が混雑した歩道橋で折り重なって倒れ、子ども9人を含む11人が死亡。明石警察署の幹部は、いったん不起訴になったあと、検察審査会の議決によって業務上過失致死傷の罪で起訴された。

 コンベンション協会の林慶一事務局長は、「事故以来、警察の祭りへの締め付けが全国的に厳しくなった」と語る。東京・高円寺の「東京高円寺阿波おどり」事務局の冨沢武幸事務局長も、「運行マニュアルの厳密化、誘導員の確保などが精査されるようになった」と話す。何か新しい取り組みをしようにも、その都度警察に細かな説明を求められるため、主催者が萎縮している構図だ。

 だが実は、別の見方もある。ねぶた祭りの踊り手であるハネトの交流団体「跳龍会」の会頭、後藤公司さんは、「主催者たちは事なかれ主義だ。祭りを盛り上げることではなく、いかに何も起こらないかしか考えていない」と主催者の姿勢を非難し、こう指摘する。「規制だけが祭りの衰退の理由じゃない」

 2015年8月1日、青森ねぶた祭の前夜祭で初披露された「スター・ウォーズ」。主催側の反対で運行は見送られた

2015年8月1日、青森ねぶた祭の前夜祭で初披露された「スター・ウォーズ」。主催側の反対で運行は見送られた

 

■スター・ウォーズねぶたの挫折

 「こんなのただの宣伝じゃないか!」「いや、そもそもねぶたは宣伝でしょう」。昨年2月、青森ねぶた祭を共同で主催する青森観光コンベンション協会、青森商工会議所、青森市役所の関係者たちは、ある議題をめぐり紛糾していた。

 議題は「スター・ウォーズねぶたの運行」。青森市役所と、ねぶたの製作仲介を手がけるデザイナーの長谷川俊也さんは、同年12月の映画の公開に合わせ、30代からなる若手のねぶた製作者4人に、スター・ウォーズのキャラクターを題材にしたねぶたを製作してもらい、運行させる計画だった。

 ねぶたは、「ねぶた師」と呼ばれる製作者が、資金を提供するスポンサーの意を組んだり、自由に着想を得たりしてテーマを決め製作する。多くは「三国志」の一場面や日本の伝説をモチーフにした作品だが、近年マンネリ化しているとの指摘が相次いでいた。スター・ウォーズねぶたはそんな作品と一線を画し、世界にねぶたをPRする絶好の機会として期待されていた。

 だが、計画は、コンベンション協会と商工会議所の猛反発にあい、つぶれた。スター・ウォーズねぶたはすでに完成していたが、運行はお蔵入りとなった。反対派の主張は、「ねぶたの伝統にそぐわない」というものだ。ただ、関係者の話を辿ると、「伝統」よりも「確執」が拒絶の原因との声は多い。

 「政争の具にされた」(関係者)。実は、現青森市長の鹿内博氏と商工会議所、コンベンション協会の不仲は地元では有名だ。09年の市長選で、協会と商工会議所は、対立候補である当時の現職市長を推した経緯がある。商工会議所の若井敬一郎会頭は、「脱原発を掲げる現市長と協力なんてできるわけない」と、確執を隠しもしない。コンベンション協会の奈良会長も、「市長はねぶたを愛していない」。事情を知る関係者は、「市も頭を下げてまで通したい企画じゃなかった」と解説する。

 外からは理解に苦しむ内輪もめに加え、「閉鎖性」を指摘する声もある。

■ハネト、ロサンゼルスに飛ぶ

 7月17日夕刻、米ロサンゼルスのライブ会場に1000人以上の観衆が集まった。「TOKYO NEBUTA in LA」。赤や青のレーザービームが交錯する中で、現地の人の喝采を浴びたのは、青森から訪米したハネトの組合「跳龍会」の後藤さんら5人だ。5人を招いたのは、このイベントの主催者で、東京のIT(情報技術)企業、ブレイン(東京・港)の天毛伸一代表取締役。天毛氏は兵庫県出身だが、2年前に初めて訪れた青森ねぶたに感動し、今年3月から、独自に「TOKYO NEBUTA」というクラブイベントを開催している。

 当初、後藤さんたちは、天毛氏の活動に強い憤りを覚えたという。「俺たちのねぶたが勝手に使われている」と感じたからだ。しかし、その後交流を重ねるうちに両者は和解した。「拒絶していても持って行かれるだけだ。協力して一緒にやっていかないと」

ロサンゼルスで舞台に立つハネトたち。中央で笛を吹くのが後藤さん(7月17日、ロサンゼルスで)

ロサンゼルスで舞台に立つハネトたち。中央で笛を吹くのが後藤さん(7月17日、ロサンゼルスで)

  外からの意見を取り入れ、海外にも発信していかなければ、狭い青森の中で縮小均衡に陥るだけ。後藤氏は、青森市やコンベンション協会などの主催団体にも「現状維持でなにも変える姿勢が感じられない」と不満をもらす。

■主催者とスポンサー企業の蜜月

 「『すでに何十社も待ちがいるので』とまったく相手にされなかった」。天毛氏は昨年、知人を通して青森市やコンベンション協会に、青森ねぶた祭への大型ねぶたの出展を打診したが門前払いだったという。

 JR東日本、日立製作所、マルハニチロ、東芝、パナソニック――。運営の都合から一度の祭りに22台しか作られない大型のねぶたには、企業名の入ったプレートがつく。祭りは毎年大手のメディアが取りあげるため、PRの絶好の場だ。スポンサー企業は、ねぶたの製作費や人件費、祭りの運営費用などを負担する代わりに、自社のネームプレートを掲げる権利を得ている。ねぶたの製作費は1台あたり500万円程度だ。

 このスポンサーに名を連ねる企業が、ここ十数年ほとんど変わっていない。JR東日本は1964年以来、1回をのぞきすべて参加。マルハニチロは1953年からほぼ毎年参加し、16年は50回目だ。祭りの花形たる大型のねぶたへの新規参入は事実上不可能となっている。

 コンベンション協会の林事務局長は、「地元に根づいて雇用を生んでいる企業を差し置いて、新しい企業をほいほい入れるわけにはいかない」とその理由を語る。ただ、別の事情もありそうだ。

 祭りの主催者で、国際会議の誘致なども担うコンベンション協会は青森市からの補助金を受ける社団法人だ。同協会の奈良会長が経営する地元のIT会社は、ねぶたのスポンサー企業である日立の販売代理店を務めており、日立グループから15.7%の出資を受け入れている。奈良氏の親族が保有するビルには、日立と関連会社8社が入居している。ちなみに日立は、ねぶた祭の最高賞の常連だ。

 コンベンション協会だけではない。青森商工会議所の若井会頭が会長をつとめる魚介類の卸売会社「青森魚類」(青森市)の主要な取引先に、マルハニチロが名を連ねる。新規参入企業を萎えさせるのに十分な「蜜月ぶり」だ。

 

 スター・ウォーズねぶたで挫折したデザイナーの長谷川氏は、「祭りが既得権益化している」と指摘する。「なぜ、新しい企業に門を開かないのか。過去のナショナルブランドがいつまでもここにいてくれる保証はどこにもないのに」

■露店のなくなった「みたままつり」

 「境内での酒宴を禁止します」――。15年7月13日、東京・九段の靖国神社。1947年から戦没者の慰霊を目的に始まった「みたままつり」の会場にはこんなポスターが掲示された。同時に、祭り開始以来初めて、露店の出店が禁止された。例年、外苑参道に出店する飲食店など約200店の露店は、東京の夏の風物詩だった。原因は、近隣からの苦情の増加。祭りの期間中は約30万人が訪れるが、ここ5年ほどは若者が急増。祭り後も近くの公園で騒いだり、道端にごみを捨てたりする人が増加していた。

 同様の動きは全国に共通する。同じく15年には例年2万人ほどの動員数のある横浜市戸塚区の八坂神社の夏祭りでも、250の露店がほぼ出店しなかった。兵庫県姫路市の「姫路ゆかたまつり」でも2000年代初めあたりから暴徒化する若者が課題となり、露店数の縮小のきっかけになった。

 「地域の人が敏感になっているし、主催者側の力も弱くなっている」。高円寺阿波おどりの冨沢事務局長はこうこぼす。商店街などの祭りは、地元の人からの協賛金で成り立つ。ただ、近年は全国展開するチェーン店などが進出。祭りへの支出を嫌がる。近隣住民も賃貸など一時的な住居で、地元に根を下ろしている人は少ない。

 2020年の東京五輪は、「2018年時点で国内総生産(GDP)を約1%(約5~6兆円)押し上げる」(日銀)と、景気浮揚効果が期待されている。だが、その陰で大小の地方の祭りが危機に瀕していることは、あまり知られていない。

(飯島圭太郎、結城立浩)

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