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大連万達、激しく攻め込みすぎたハリウッド
2017-03-23 12:30:48   From:日経   コメント:0 クリック:

  キングコングが心優しい巨大なサルとして戻ってきた。古いハリウッド映画シリーズのリバイバル作品「キングコング 髑髏(どくろ)島の巨神」が3月10~12日に米国興行収入ランキングでトップに躍り出た(注:日本では25日封切り)。製作会社の米レジェンダリー・ピクチャーズと同社を所有する中国の不動産大手、大連万達集団(ワンダ・グループ)は、映画のヒットで安堵した。

 万達には良いニュースが必要だった。「ゴールデン・グローブ賞」などの賞の運営・番組製作を手掛ける米テレビ番組製作会社ディック・クラーク・プロダクションを10億ドルで買収する計画が3月10日に頓挫したからだ。万達としては、ハリウッド映画に登場する典型的な登場人物――目を輝かせてハリウッド進出を試み、結局カネを巻き上げられる外国人投資家――にやはりなりたくない。

大連万達の王健林氏。映画館運営のほか、映画製作も手がける万達はM&Aを通じて米ハリウッドとの連携を強めてきた=ロイター

大連万達の王健林氏。映画館運営のほか、映画製作も手がける万達はM&Aを通じて米ハリウッドとの連携を強めてきた=ロイター

 

 映画産業進出を夢見た安徽省の銅加工会社など、ハリウッドに投資するために最近列をなしている中国企業には、二重のリスクがある。米エンターテインメント業界で屈辱を味わう恐れ、さらに中国政府(の意向)と不和を生じさせて国内事業に害を及ぼしかねないというものだ。

 このリスクは11日、はっきりした。鍾山商務相が、中国企業が昨年まとめた合計2200億ドルの海外M&A(合併・買収)の一部を「手当たり次第で不合理な投資」と評し、「我が国のイメージに悪影響を与えた」と言ったのだ。政治的なコネが不可欠な国において、あってはならない類いの評価だ。

■キングコング流の無遠慮さで買収

 万達はまだ不興を買っていないが、レジェンダリーと米映画館チェーン、AMCエンターテインメント・ホールディングスのオーナー企業として、ハリウッドで最も有名な中国企業であり、それゆえ最も注目を浴びている。万達の創業者で大富豪の王健林氏はそろそろ、多少の忍耐力を発揮すべきだ。新たな買収を模索してロサンゼルスの6大映画スタジオの門を派手にたたき続けるのではなしに。

 王氏はこれまで、エンターテインメント業界でもキングコング流の無遠慮さを発揮してきた。中国不動産業界で各地にショッピング・レジャー施設「万達広場」を相次ぎ建設した際と同じだ。米国のAMCと欧州のオデオン・アンド・UCIシネマズ(英国)、ノルディック・シネマ・グループ(スウェーデン)を傘下に収めて国際的な映画館チェーンを築き上げてきた。王氏は、米パラマウント・ピクチャーズといった映画スタジオを「喜んで買う」と公言している。

 門をどんどんたたき続ければ、王氏はいずれ、思い通りにできるかもしれない。昨年9月に万達と提携したソニー・ピクチャーズエンタテインメントは困難な局面を迎えている。1989年に米コロンビア・ピクチャーズを買収し、アジア企業の先陣を切ってハリウッドに進出して以来、数度目となる難局だ。世界第2位の映画市場である中国で昨年成長が鈍ったことは、ほかの企業にも打撃を与えている。
王氏はいくつかの点で強い立場にある。万達は資本をふんだんに持っており、王氏はこれを好きに使える。また、同氏はハリウッド企業に中国市場への優先的アクセスを与えることもできる。中国は制限された市場で、中国で上映できるハリウッド映画の数に上限があるが、中国との共同製作映画は制限されていない。映画スタジオが共同製作から得る中国興行収入の取り分は、より大きい。

■資金力だけでハリウッドは動かない

 だが、先駆企業が経験したように、ハリウッドは腕力と資金力だけで動くわけではない。誰を知っているか、中枢に最も近い内部関係者から信頼されているかどうかといったことも同じくらい重要になる。ハリウッドには、裕福な新顔の気を引きながら、約束した見返りを完全には与えなかった過去がある。

 王氏は中国の不動産開発業者として、こうした策略にはなじみがあるはずだ。王氏は、失脚した元政治局委員の薄熙来氏が大連市のトップだったときに同市で事業を築き上げて以来、地元の当局者と親しい関係を維持することで利益を上げてきた。中国共産党には、父親が毛沢東の「長征」に参加した1930年代までさかのぼる深いルーツを持つ。

 

「キングコング 髑髏島の巨神」記者発表会での一幕。中国人女優の景甜(4人のキャストのうち左から2人目)が出演している(16日、北京)=AP

「キングコング 髑髏島の巨神」記者発表会での一幕。中国人女優の景甜(4人のキャストのうち左から2人目)が出演している(16日、北京)=AP

 

 こうした経歴や人脈は中国でチャンスをもたらすが、王氏はハリウッドにそのような伝手(つて)を持たない。レジェンダリーは、万達が2015年に35億ドルの大金を払って株式の過半数を取得し、創業者のトーマス・タル氏が今年1月に引退してから、困難に見舞われている。万達がディック・クラーク買収に払うことになっていた10億ドルという金額も、競合他社からは高いとみられていた。

 王氏には、まだ存在しないものを追い求めているという難題がある。「グローバルな映画市場」がそれだ。ハリウッドが中国の資金に依存するようになった結果、中国で製作される映画が増え、キングコングに出演した女優、景甜(ジン・ティエン)など、中国人俳優の映画出演も増えている。だが、世界が米国のヒーローに慣れ親しんでいても、米国の映画ファンは中国の寓話(ぐうわ)にあまり興味がない。

 レジェンダリーは、宋王朝を舞台とし、マット・デイモンが主役を務める怪物アクション映画「グレートウォール」で隔たりを埋めようとした。しかし、米国での2月の興行成績は振るわなかった。今度はそれが、万達の「青島東方影都(オリエンタル・ムービー・メトロポリス)」の先行きに影を落とす。青島東方影都はグレートウォールの一部が撮影された青島の大型スタジオ兼リゾート施設で、万達が世界的な映画製作をもっと呼び込もうとしている場所だ。

 王氏が待てれば、まだ手に入れられる成果がある。「ハリウッド・メード・イン・チャイナ(中国製ハリウッド)」の著者アン・コーカス氏は、中国の習近平国家主席は「世界中のすべての人が見たがる中国映画」のソフトパワーを切望していると指摘する。現時点では、中国企業がお金を無駄にしたり、ハリウッドなどで失笑を買ったりするのを防ぎたいという思いとバランスが取れている。ただ、この野望は失われていない。

 無分別な買収で、米国の政治家が不安になるだけでなく、自らの願いと現実に折り合いをつけようとする習氏がいら立つ恐れがある。王氏は忍耐力という長所を持たないが、身につけなければならない。


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