女優・倍賞千恵子さん『高倉健さんと生きた時代』を語る③
2016-02-05 13:32:51   From：篠原功   コメント：0 クリック：

健さんの思い出を語る倍賞さん。聞き手は娯楽評論家の佐藤さん

 女優・倍賞千恵子さん『高倉健さんと生きた時代』を語る③
 
　第28回東京国際映画祭の追悼特集『高倉健さんと生きた時代』において女優の倍賞千恵子さんが舞台挨拶｡高倉健さんと共演した時のエピソードを語った。聞き手は娯楽評論家の佐藤利明氏。その第三弾だ。
 
　倍賞千恵子さんには第一弾で「幸福の黄色いハンカチ」、第二弾では「遥かなる山の呼び声」で健さんと共演したときのエピソードを語っていただいた。第三弾では「駅ＳＴＡＴＩＯＮ」で共演したときの健さんや当時の撮影秘話などを語っていただいた。
　この映画は、１９８１年に製作されたもので、脚本が倉本聡さん、監督が降旗康男さん。主演は警察官、三上英次を演じた高倉健さんで、居酒屋「桐子」を営む桐子役として倍賞千恵子さんが特別出演した。
　オリンピック射撃選手であり､警察官でもある三上が事件を通して様々な女たちと出会い、濃厚なストーリーが展開されていく。北海道の増毛町、雄冬岬、札幌市などを舞台に多様な人間模様を描いた名作だ。劇中に八代亜紀さんのヒット曲『舟唄』が使用されており、ゆきずりの男女の出会いと別れを描くために重要な役割を果たす。哀調に満ちた『舟唄』から、あらがうことのできない運命を甘受していく生き方や哀切感が深々(しんしん)と伝わってくる。
　倍賞さんはまず「この映画に出演する時、『五社協定』もないのに、なかなかオーケーがでないのです。『ぜひ出たい』と強く希望して出演した作品です」と振り返った。
　「五社協定」とは、１９５３年に日本の大手映画会社５社が結んだ協定。専属監督、俳優の引き抜き禁止、貸し出し特例の廃止などが盛り込まれた協定だ。
　英次は、オリンピック強化コーチのかたわら、警察官として、赤いミニスカートの女を狙う通り魔・五郎を追っていた。五郎を逮捕してから４年。英次のもとに五郎の刑の執行を知らせる手紙が届く。英次は４年間にわたって五郎に差し入れを続けていた。
　この間、英次にはコーチ解任の知らせが届いた。暮れも押し迫った12月30日、雄冬に正月の帰省のため､連絡船の出る増毛町に降り立った。この時、英次は警察官を辞める決意をしていた｡
　しかし、この日、連絡船は欠航となった。所在のない英次は赤提灯の灯る居酒屋「桐子」に入った。女手一つで切り盛りする桐子の店だった。
　客は誰もいなかった。テレビからは、八代亜紀の「舟唄」が流れていた。桐子は「この唄、好きなの、私」と呟（つぶや)いた。英次は、自分と同じ孤独の影を持つ桐子にいつしか惹(ひ)かれていった｡
 
◆「二度と出ていらっしゃらない俳優では？」
 
　その後、倍賞さんは、すっかり「舟唄」の虜になった。「いまコンサートで歌っています」という。撮影については「他社だから違うだろうと思って(撮影)入りましたが、映画作りは同じでした。臭い、ホコリ、温かいライト、機材の触れ合う音まで」と倍賞さん。
　倍賞さんは撮影で居酒屋「桐子」のカウンターの中に立った。「普通の居酒屋にあるものすべてが置いてありました。何でも揃っていてまったく違和感がなく、とても居心地よく、カウンターの中で芝居が出来ました。隅々まで行き届いていました」と振り返った。
　倍賞さんはまた「映画を作るのは､皆で山に登る時のようです。息がぴったり合っています。三上刑事が拳銃を撃つシーンでは、撮影現場が『ピーン』と張り詰めました。終わると健さんはお茶目に振る舞い、皆の心を和らげようとしました」と語る。
　「渥美清さん、笠智衆さん、高倉健さんのようなタイプの俳優はもう二度と出ていらっしゃらないと思います。素晴らしい俳優ほど贅肉がなく(痩せているという意味ではない)、小細工をしない。私もそんな俳優になりたいですね」と倍賞さん。
　健さんへのメッセージを聞かれた倍賞さんは「突然、いらっしゃらなくなり、とてもショックでした。川島なお美さんも亡くなり、突然、大切な友人、親しい人が亡くなる衝撃は計り知れません。自分の前に突然､鉄のカーテンが落とされたようにいなくなり、大きな衝撃を受けました。皆さんの追悼上映を観るのが嫌でした。やがて自分もいなくなるのかと思って」と語った。
　最後に佐藤氏に促され、また、会場からの拍手にも応え、倍賞さんはドーンの「幸せの黄色いリボン」を口伴奏のアカペラで軽快に歌った。倍賞さんのサプライズに会場は盛んな拍手を送った。