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画家王子江さん水墨画で釜石市大槌町の被災者励ます
2012-08-29 14:36:13   From:人民日報海外版.日中新聞日本語版524号   コメント:0 クリック:

被災者に寄り添い、渾身の水墨画 NHK「日曜美術館」が2度放映





 画家の王子江さんが東日本大震災被災地を訪れ、水墨画を描いて被災者たちを励ました。大震災から1年が経過した今年3月に岩手県釜石市大槌町を訪れた王さんは甚大な被害を受けた被災地に立ち、絵筆を握るとともに、被災者が避難する仮設住宅を訪ねて激励する一方、6月は大槌町の子どもたちに会って一緒に絵を描いて、子どもたちを励ました。王さんのこうした一連の活動はNHK―Eテレが1時間番組「日曜美術館」で2度(再放送含む)にわたって放映した。

 穏やかな海に面した大槌町は、昨年3・11に大震災と大津波で甚大な被害を受けた。総務省統計局国勢調査によると同町の人口は2010年1万5277人だった。しかし、3月11日の大震災と大津波で1729人(昨年6月6日現在=死者777人、行方不明952人)の人々が犠牲になった。
 画家の王子江さんがこの大槌町を訪れたのは今年3月。1年が経過しても建物をはじめ、バイクや自動車の残骸が散乱し、地震と津波の恐ろしさをまざまざと見せつけていた。この災害でかろうじて原形を留めていた公民館があった。王さんはキャンバスを広げ、いきなり朽ち果てた公民館を描き始めた。
 王さんは薄い墨と濃い墨を自在に駆使しながら、公民館を描いていった。大地震と大津波の凄まじさを作品として残しておかなければいけないとの強い衝動にかられる一方、亡くなった人たちに思いを馳せるためだった。
 王さんは1958年に中国北京市で代々文人画家の家系に生まれた。3歳から祖父や父から絵の英才教育を受けた。当時、王さんの家庭には花鳥や山水の絵が溢れ返っていた。王さんの才能はこうした環境で育まれていった。
 やがて王さんは中国国立北京芸術学校に入学した。そこで水墨画だけでなく油絵も学んだ。同時に北京広場で中国各地から集まってきた労働者たちを毎日熱心にスケッチした。労働者たちの豊かな表情に魅せられたからだ。卒業までに王さんの描いた労働者の絵は膨大な数に上った。
 王さんが人間の顔を描くことにようになったのはこの時の経験が土台になっている。しかし、水墨画で顔を描くといっても、伝統的な水墨画の手法だけにこだわらなかった。岩絵の具を使ったり、色彩も大胆に取り入れた。さらに油絵の表現にも挑戦した。
 1988年、王さんは30歳で来日した。東洋と西洋の文化が合流する日本に魅せられたからだ。最初は千葉県茂原市で日本語を学びながら、水墨画を描き、地元の人々と交流していった。

大槌町の子どもたちと絵を描く
「元気な姿を伝えたい」の願い

 まもなく王さんの存在は、画壇やマスコミからも大きく注目されるようになった。「中国当代国家辞典」に最年少で登録され、「王子江画集」(東京)を出版。1992年にはNHKテレビが「中国画家・王子江」として放映。1994年には奈良薬師寺に水墨画掛軸作品「日月同輝」が収蔵された。
 新境地を開いたのは縦2メートル、横100メートルの水墨障壁画「雄原大地」を描いたこと。この前代未聞の障壁画を描くにあたって王さんは中国各地へ取材旅行に出かけた。躍動感あふれる自然を描いた障壁画は迫力満点。そのダイナミックで力強い表現は鑑賞者を圧倒した。この障壁画は千葉県茂原市立美術館に収蔵されると同時に、この模様はNHKをはじめ、マスコミ各社が注目し、大きく報道した。
 その後も王さんはあくまでも人物や自然にこだわった。大きな衝撃や感動を与えたのは、1日の仕事を終え、居酒屋で飲み、語り合う庶民の楽しげな姿や、イラク戦争で恐怖におびえる人々を描いた作品だ。そこには地位も名誉もない庶民に注がれる温かな眼差しがあった。また、自然の雄大さや力強さを尊び、戦争を憎む王さんの揺るぎない心の内が表現されていた。
 大災害から1年が経過した大槌町で王さんは家を流された37歳の男性を訪ねた。「生まれ育ったこの地を離れたくない」という男性に話を聞き、男性の家族をスケッチした。「辛い経験をした人の姿を伝えたい」――そんな思いを込め、大災害に会ってもなお変らない家族の絆を表現した。同時にどんな逆境にも負けないで、夢と希望を持って歩もうとする人々の気持ちを描いていった。
 さらに6月には大槌町の子どもたちに会った。王さんが「一緒に絵を描こう」と呼びかけたのだった。20メートルの大きな紙を体育館に広げ、まず、子どもたちに思い思いの絵を描いてもらった。
 3月11日には海が津波で荒れ狂い、多くの人たちが犠牲になって、家が流された。しかし、子どもたちの多くはその海に生きるイカ、カニ、魚を生き生きと描いた。故郷の海に対する子どもたちの思いは変わらなかった。子どもたちが絵を描き終えると、今度は王さんの番だ。王さんは子どもたちが描いた絵の上に大きな竜の絵を描くことになった。竜は中国ではおめでたいことが起きるといわれるシンボル的な存在だ。
 王さんは「大変辛い経験をした大槌に良いことが起きるように」との願いを込めたという。二本の大きなホウキを自在に操り、渾身の思いを込めて竜を描いていった。やがて子どもたちが描いた絵の上に茜色の天空を勢いよく上ろうとする竜が力強く姿を現した。これには子どもたちも「すごい、すごい」を連発し、感動を素直に表した。
 「人の悲しみや嬉しさに寄り添う。そして子どもたちの元気な姿を伝えたい」――その絵には王さんの気持ちが見事に表現されていた。子どもたちから王さんには、野原に咲く花を摘んで作ったという花輪がプレゼントされた。

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