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香港、洋上LNG受け入れ基地に波立つ
2016-06-21 16:19:48   From:日本経済新聞   コメント:0 クリック:

  東京の半分ほどの面積に730万人以上がひしめく香港。電力資源も乏しい国際都市で、液化天然ガス(LNG)の洋上プラントを導入する計画が議論を呼んでいる。中国に依存する天然ガスの調達先を多様化してコストを下げる狙いだが、巨額な建設費に伴う電力料金上昇や生態系破壊への懸念が浮上。電力供給を2社で独占する業界に対する市民の不満もくすぶり、先行きには不透明感が漂う。

 香港国際空港がある香港最大の島、ランタオ島から南へ約4キロメートル。香港南西端に位置する索罟(ソコ)群島は、豊かな自然に恵まれ、香港政府も自然保護区域「マリンパーク」への指定を目指すエリアだ。5月初め、香港電力大手のCLP(中電控股)は群島の沖合に香港初の洋上プラントを建設する計画を発表した。

 同社が計画するのは「FSRU」と呼ばれる浮体式のLNG受け入れ基地。専用船で輸送したLNGを再ガス化して陸上に送る設備で、香港北部・新界地区のガス火力発電所などと結ぶパイプラインも敷設する大型プロジェクトだ。

 「国際LNG市場への直接アクセスを通じ(価格交渉での)競争力が高まる」。CLPのリチャード・ランカスター最高経営責任者は計画の意義をこう語る。CLPは当初、索罟群島の陸上に80億香港ドル(約1100億円)を投じてLNG基地を建設する予定だったが、環境団体などが強く反発。2008年に計画を撤回しており、プラント建設は10年越しの悲願だ。

 香港の天然ガス調達は中国に依存する。CLPは20年前から中国国有石油大手の中国海洋石油(CNOOC)が運営する南シナ海の崖城ガス田から輸入しているが、生産量が徐々に枯渇。今年2月に別のガス田から調達する契約を新たに結んだ。CLPは「当社の追加インフラは不要でコストは低い」と説明するが、天然ガスを「高値づかみするリスク」(証券アナリスト)を指摘する声もある。

 また中央アジアからつながるパイプラインも、昨年12月に中国・深圳で起きた土砂崩れで寸断。洋上プラントは「エネルギー安全保障面でも不可欠」(ランカスター氏)とする。

 香港の電源構成は石炭が59%、天然ガスが19%を占める。残りの22%は中国本土の原子力発電所から調達する。中国と香港当局は08年にエネルギーの安定供給に関する覚書を結んだ。石炭火力発電所の老朽化を背景に、14年には香港政府が本土からの供給を50%以上に増やす案を発表したが、中国への依存度が高まることへの批判が集中。香港政府は天然ガスの比率を20年までに50%に引き上げる方針にかじを切った。

 深刻な大気汚染が社会問題になっている香港。洋上プラントは石炭の比率を下げ温暖化ガス排出量の削減につなげる狙いもあるが、世論の反応は複雑だ。

 「建設費が電気代に上乗せされるのでは」。新界地区の会社員、陳文容さんは懸念する。香港は北の九龍半島側を担うCLPと、南の香港島を主なエリアとする香港電灯の電力2社体制。地域独占による高い収益性から“もうけすぎ批判”が根強いだけに、電気代の動向には敏感だ。

 環境への悪影響を指摘する声も上がる。索罟群島周辺にはシナウスイロイルカなど貴重な海洋動物が生息しており、世界自然保護基金(WWF)香港は「洋上基地は生物多様性を破壊しかねない」と批判する。

 こうした懸念にCLPは「陸上設備より建設費は安く環境への影響も少ない」と強調。環境影響評価を実施後、詳細な計画案を香港政府に提出する方向だ。いかにコストを抑えながら電源構成を多様化するか。香港政府の悩みは続く。


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