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百度、医療広告不正の深い闇 「巨悪」の影に福建人脈
2016-06-24 11:34:21   From:日本経済新聞   コメント:0 クリック:

 始まりは中国最大級の質問サイトで流れた問いかけだった。

 「人が犯す悪の中で、最大の悪は何だと思いますか?」

 数多くの若者から回答が寄せられるなか、陝西省出身の魏則西さんが自らの体験談を書き込んだのは2月下旬のことだ。痛切な告発文だった。

 「考え抜いて書くことに決めた。相手の具体名は明かさないけど、分かる人には分かるはずだ。少しでも被害者が減りますように」

 大学2年の時、重い病気を患った。滑膜肉腫と呼ばれる悪性がんだった。致死率の高い難病で、一般の病院に通っても症状悪化が止まらない。最後にわずかな望みをかけたのが、両親が中国最大の検索サイト、百度(バイドゥ)を使って一生懸命探し出してくれた病院だった。

 

百度の広告不正の舞台となった北京市内の病院はいまも閉鎖が続く

百度の広告不正の舞台となった北京市内の病院はいまも閉鎖が続く

 軍系の有力病院だ。米スタンフォード大と滑膜肉腫に効果のある「生物免疫療法」を共同研究しているという触れ込みだった。百度のキーワード検索でも一番上に出るのだから、確かにがん治療の先端医療機関なのだろう。「最新技術ですから、80~90%の確率で有効ですよ」。百度と担当医を信じて魏さんは休学し、親戚や友人から20万元(約320万円)以上をかき集めて入院する。

 だが何度治療を受けても、病状は改善しなかった。数カ月後、腫瘍は肺に転移してしまう。命がかかった魏さんは必死に情報を集め直した。そして米国の友人から寄せられた衝撃的な事実に直面する。「グーグルで調べたら、この技術は効果がないため、米国ではもう使われなくなったみたいだよ……」

■「医療情報の検索が邪悪な商売に…」、21歳がん患者の告発

 スタンフォード大との提携も新しい治療法も、すべて病院の偽装広告だった。しかも百度には多額の広告料が支払われていた。魏さんは経緯をつづりながら、それでも生きることへの希望を捨てずに「巨悪」を糾弾する。

 「医療情報の検索ですら商売になっていた。こんなに邪悪なことが横行していたなんて……」

 書き込みから約2カ月後の4月12日。魏さんは息を引き取った。享年21歳だった。その死をきっかけに、「中国のグーグル」と呼ばれる百度の経営を揺るがす不正広告事件が明るみに出る。

 「駄目だ。ここは入れない」。目つきの鋭い保安員が記者を追い払う。北京市中心部の武警北京総隊第二病院(武警二院)。「一切の対外服務を停止します」。5月4日から大きな通告を貼り出し、門を閉ざしたままだ。付近には武装警察の覆面パトカーが陣取り、周囲に目を光らせる。魏さんが告発した病院には、いまなお患者らの抗議が続いている。

問題は根が深い。実は武警二院は単なる「場貸し」で、実際に医療業務を請け負っていたのは民間病院だ。本業でもうけを追求できない公立病院が手数料を取り、民間に名前と場所を貸し出す。中国の医療業界ではこうした二重構造が横行する。

 魏さんがすがった武警二院の「生物免疫療法」も、手がけていたのは「●田系医院(●はくさかんむりに甫、以下同)」という民間病院だ。中国では最大手の病院グループとして知られるが、実態は謎に包まれた存在でもある。その姿を追いかけると、現代中国の異様な側面が浮かんでくる。

 中国南部の福建省●田市。人口287万人の中級都市の郊外、東庄鎮には奇妙なゴーストタウンが延々と続いていた。

 

福建省の地元には人けのない高級住宅地が延々と広がる

福建省の地元には人けのない高級住宅地が延々と広がる

 中国の地方都市によくある、実需を無視してつくられた人の住まない新築マンション群「鬼城」ではない。すべてがリゾート地にある別荘のような高級住宅だ。「みんな桁外れの金持ちばかりさ。海外に住んでいるから、春節ぐらいしか帰ってこないよ。見たこともないような高級外車の行列ができる」。河南省から出稼ぎに来ているというタクシー運転手、趙会兵さん(37)は言う。

■民間病院の8割を独占する病院グループ

 中国全土に1万カ所ある民間病院の80%に●田系の資本が入る。つまり巨大市場の80%を独占するのが同系医院だ。その発祥の地が同市東庄鎮で、約8万人いる住民の大半が関係者とされる。

 東庄鎮の中心地、小高い丘の上に荘厳な「陳靖姑祖廟」がそびえる。同系医院の創始者である陳徳良氏(65)が建立し、いまでは付近の住民らに「菩提寺」として使われている施設だ。「ここが発展したのも陳さんのおかげだ」。地元住民らは口をそろえて陳氏を褒めたたえる。

 1980年代、まだ中国に近代的な大型病院が少なく、一般市民は高額医療になかなか手が出なかった時代だ。医学の専門知識はなかった陳氏だが、皮膚病などの民間療法に詳しく、次第に東庄鎮で「教祖」のような存在になっていく。

 

病院グループ創業者は地元で「教祖」のようにあがめられる

病院グループ創業者は地元で「教祖」のようにあがめられる

 その陳氏の弟子たちが本格的な医療機関として成長させたのが同系医院だ。1990年代以降は同業の買収などを繰り返し、他地域への進出を加速する。だが皮膚病から始まり、婦人科、泌尿器科、美容整形と急速に業容を広げていく中で性格も変質していく。

 「性病にかかってるよ。あなた、いかがわしい性サービスをやっていますね」。福建省アモイ市に住む20歳代の女性会社員は同系医院の婦人科で、身に覚えのないことを言われて法外な治療費を請求されたという。その名前を聞くと多くの中国市民が渋面をつくるのが同系医院だ。

 中国の公立病院は患者数が多く、医者との特別なコネでもない限り、迅速な受診はままならない。それを突いたのが同系医院だ。強引ともいえる手法で性病や美容整形といったニッチ市場を席巻。一方で、軍系の大型病院を中心に業務下請けも積極的に引き受けることで中国全土に拠点を拡充していった。

 いまでは全国に8000カ所の病院や診療所を持ち、年間の総収入は3050億元(約4兆8000億円)、医療機器や医薬品など関連企業も含めた従業員は合計63万人に及ぶ。陳氏の弟子たちは「四大家族」と呼ばれる幹部となり、その親族も含めて数百人近い関係者が1億元を超える個人資産を抱えるまでになったとされる。

こうした●田系医院の躍進を支えてきたのが百度だった。「百度が2013年12月期に稼いだ260億元のネット広告収入のうち、120億元が同系医院が出稿したものだ」。2年前には当時の同市トップである党委書記がこう暴露し、話題を集めた。

■百度と民間トップ病院、持ちつ持たれつ

 中国の検索市場で8割のシェアを占める百度で露出が増えれば、知名度は上がり、患者は増える。一方の百度も広告収入がどんどん入ってくる。両社は次々と提携を拡大し、結びつきを強めていった。

 「今後も医療広告が成長のけん引役になる」。かねて百度の李彦宏最高経営責任者(CEO)はこう公言していた。当局の業務改善命令も入り、百度は不正が横行する医療広告の掲載を全面的に見直すとしている。だが、いまなお百度のネット広告収入は全体の売上高の9割に達し、中でも医療関連は2~3割を占める稼ぎ頭だ。「●田系を中心とする医療業界と百度は、そう簡単には切れない関係にある」(百度関係者)

 1つの巨大医療グループが市場をほぼ独占するいびつな医療業界と、横行する一般企業との癒着――。これを生み出したのは、福建省を地盤にする同系医院の特異な立ち位置にも原因がある。国内外の政財界に幅広くつながる「福建人脈」の存在だ。

 「世界は再び同じ大きな根のもとにつながる」。●田市内の至る所にこうした大型広告が翻る。昔から「華僑・華人の郷(さと)」としても知られてきた場所だ。

 シンガポールのファーイースト・グループ、インドネシアのリッポー・グループ、そして香港の長江実業グループ……。「福建人」は中国国内だけでなく、東南アジアにも広く散らばり、各地で財閥を形成した。その多くが福建出身という同根主義でつながり、強力な経済力を背景に中国の歴代指導者や経済界に対する強い影響力を保ってきたとされる。

 そして現在、そうした福建人脈の頂点の一角にいるのが元国家主席の江沢民氏だ。側近で最高指導部メンバーだった賈慶林氏はかつて福建省トップを務めた。●田系医院の顧問には江氏と「私的な関係にある」とされる陳至立・元全国人民代表大会(全人代)常務委副委員長が名を連ねる。江氏が権力基盤とした軍も、同市内に大型基地を構える。

 福建人脈を駆使し、その全面的な擁護を得る。この医療グループが中国で急成長を遂げるのは自然な流れだった。だが事態は一変した。

 「新旧指導部の権力闘争が波及した」。百度関係者はささやく。福建省トップの経験があるのは習近平氏も同じだ。やはり福建人脈と深くつながっており、対立を深める江氏との間で福建の権力基盤を巡る綱引きが激化しているとされる。

 百度の広告不正は、結局は党内の権力闘争に行き着いた。置き去りにされるのはいつも一般市民だ。だが魏さんの告発がネット空間で話題を集め、最終的にゆがんだ政官財の癒着の構造に一矢報いたのは確かな事実でもある。魏さんはこう書きつづって告発文を終えている。「もう二度と、だまされる人が出ないことを願っています」

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