「もっとにぎやかな場所だと思っていたんだけど……」。6月25日土曜日、香港島の西、大嶼島(ランタオ島)にある香港ディズニーランド。中国安徽省から家族で訪れた会社員、秦依哲さん(25)は、絶好の行楽日和だというのに閑散とした園内に拍子抜けした。
駐車場の埋まり具合は3分の1ほど。オープンしたばかりの人気映画「スター・ウォーズ」をテーマにしたローラーコースター「ハイパー・スペース・マウンテン」も、待ち時間は20分ほどで済んだ。秦さんは「もう一度来ることはないかな」と話し、香港市内の観光に向かった。
05年9月に開園した香港ディズニー。広さは1.26平方キロメートルと「世界最小のディズニーランド」と呼ばれることもある。中国の景気減速や香港での反中感情の高まりもあって、15年度は本土からの観光客を中心に入園者が約70万人減った。前期の最終損益は1億4800万香港ドル(約20億円)の赤字と4期ぶりに水面下に沈んだ。
「運営上の人員調整だ」。香港ディズニーは4月に100人近い従業員の解雇に踏み切った。まとまった数の人員削減は、開園以来初めてのことだ。
集客を増やす潜在的な余地がないわけではない。アジアでは所得水準の向上とともに娯楽への消費意欲を増す中間層が台頭している。20年には中国だけで10億人、東南アジアやインドを含めると20億人に近づくとの予測もある。
香港ディズニーは17年には750室を備えた新たなホテルを開業する計画で、さらなる拡張も不可能ではない。
1999年に結ばれた香港当局と米ウォルト・ディズニーの合意によると、ディズニー側が隣接する0.6平方キロメートルの用地を取得できる優先権を持つ。「我々はディズニーに100年の土地の使用権を与えた」と99年当時の交渉に携わった元政治家、マイク・ラウス氏は明かす。
ただ拡張構想が実行されるかは不透明だ。香港当局は計画について口を閉ざしたまま。今年春には香港ディズニーの金民豪・最高経営責任者(CEO)が辞任した。インドネシアやフィリピンといった近隣諸国からお客を呼び込む「アジア戦略」を打ち出していた同CEOの辞任は、今後の戦略に影響を与えかねない。
ライバルは続々生まれている。上海ディズニーランドが開業したのは今月16日。上海はホテルや商業施設などを併設したリゾートで、広さは香港の約3倍。香港の入園者が年800万人にも届かない中、上海は初年度で1000万人を目指すという。「競合環境が厳しくなる中で、香港の収益回復は容易ではない」(アナリスト)との見方は強い。
米ウォルト・ディズニーにとって上海は、13億人超の巨大市場を抱える中国市場を切り開く意義が大きい。アジア・太平洋地域での収益基盤の裾野も広がる。
5月5日、北京の人民大会堂。共産党の重要会議も開かれる場所で、ディズニーのボブ・アイガー会長兼CEOは習近平国家主席と面会していた。中国メディアによると、アイガー氏は中国と米国の文化交流を高く評価したという。
「(上海ディズニーは)最大・最善の成果を追求する中国の政府・国有企業の事業でもある」。香港ではこんな見方がささやかれる。事実、上海ディズニーの運営会社には上海の国有企業が過半を出資、事業の主導権を握っている。
国家主導で上海ディズニーを成功に導こうとする中国。業界関係者の間では、香港ディズニーは「ニッチな需要に生き残りを探らなければならない」との指摘が多いが、その道筋はまだ見えていない。