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姿変える「爆買い」、主戦場は中国へ
2016-07-08 10:08:16   From:日本経済新聞   コメント:0 クリック:

   2015年の新語・流行語大賞にも輝いた中国人の「爆買い」。今年に入り、中国経済の減速や為替の変動でブームに一服感が出ているという。小売りなど関連する企業経営者の声を聞くと、あたかも日本の商品そのものへの需要がなくなったように映る。だが果たして、本当にそうなのだろうか。

 

日本の商品に対する中国人の需要は根強い(遼寧省大連の店舗)

日本の商品に対する中国人の需要は根強い(遼寧省大連の店舗)

 「コストが下がるので、価格を下げられる。もう日本へ旅行し、重い荷物を抱えて帰る必要はなくなりますよ」。中国で日本の食品や雑貨などを輸入販売する越洋通商の黄剛董事長は顔をほころばせる。

 同社は遼寧省大連など東北地域を中心に、上海や蘇州などで小売店「越洋物語」を約30店展開。大連の店舗に入ると、「跨境(越境)商品展示区」と表示された一角があった。中国人が好きな健康食品、それにシャンプーなどのヘアケア商品などが並べられており、一見、他の売り場との違いはない。

 異なるのは購入方法だ。これらは、実際には保税区と呼ばれる区域の倉庫に保管されている商品の「展示品」で、その場では買えない。客は店頭の商品に付いたQRコードをスマートフォンに読み込んで同社のインターネット通販サイトで決済し、自宅で受け取る仕組みだ。

 

 

 中国では越境EC(電子商取引)の振興を目的に、今年から大連や上海、広州など全国12カ所に越境ECの試験区を設置。試験区内にある保税区では、関税などがかからない状態で商品を輸入・保管できる。この保税区を経由してネットで販売すれば、ネット通販業者は通関作業の簡素化や配送などコスト抑制につながる。また4月には越境ECに関わる税制を変更。限度額はあるものの、関税はゼロ、増値税(消費税)などその他の税金は通常の輸入の7割に抑えた。

 越洋通商はこれまで、通常の輸入形式で商品を仕入れ、店舗で販売してきた。このため税金や人件費、粗利益などを上乗せして販売すると、日本の売価に比べ「3~6倍高くなっていた」。だが試験区を活用すれば、商品や為替にもよるが「日本で買った場合と大きくは変わらなくなる」(黄董事長)という。

■税改正で免税規定なしに、個人ブローカーに打撃

 中国はこうした税改正と同時に、海外に住む個人が本国に商品を送る際の税額50元以下の免税措置を廃止した。

 

越境ECの試験区を活用すれば、関税などのコスト軽減につながる(遼寧省大連)

越境ECの試験区を活用すれば、関税などのコスト軽減につながる(遼寧省大連)

 こちらの狙いは、公平な税の徴収だ。従来、個人ブローカーである代理購入(代購)がこの税制の盲点を突き、訪日旅行客に交じって日本の百貨店やドラッグストアで商品を調達。個人を装って郵送で本国の顧客に販売し、荒稼ぎした。これでは通常の輸入業者との不公平感が生じるうえ、代購の税逃れにもなる。そこで中国は税改正で代購の締め付けを図った。

 割を食った代購は虫の息だ。「今はもう開店休業状態。価格競争は激しいし、利益は出ない」。都内に住む石苗さん(26、仮名)はため息をつく。夫と居酒屋を経営する傍ら、代購で昨年末まで月1200万円ほどの売り上げがあったという。

 潮目が変わったのは今年に入ってからだ。日本製の商品の良さが認知され、新規参入する代購が急増。もともと小売店で買った商品を転売する単純なビジネスモデルのため、価格以外での差異化は難しく、低価格競争に拍車がかかった。そこに円高・元安が進んだうえ、税制まで変わって利益を圧迫。「代購仲間はほとんどが撤退した」(石さん)。

 代購が日本での“ビジネス”から撤退するにつれ、小売業者が訪日客による「インバウンド消費」とみていた特需は急減した。また本来の訪日客も為替変動に加え、炊飯器などの高単価品から菓子や雑貨などに需要がシフト。温泉などのレジャー消費に旅行目的が移ったこともあり、今年1~3月期の訪日中国人客の旅行消費額(1人当たり換算)は1割近く落ち込んだ。こうした複合的な要因が絡み合い、「爆買い」が一気にしぼんだような印象を与えた。

 だが、中国人の日本商品に対する熱まで冷めたわけではない。あくまで買う場所が日本から本国にシフトする、いわば「爆買いの第2ステージ」に進みつつあるだけにすぎない。

■日本への旅行、買い物と分離?

 大連の会社員女性、周路さん(28)はかつて日本に旅行した際、行く先々で大量のお土産を買い込み、疲れ果てた記憶が鮮明に残る。だが、子どものおむつや化粧品などは日本製と決めており、「商品は中国のネット通販で買い、旅行は旅行で楽しみたい」と話す。合理的な中国人にとって、今後はこうした訪日旅行のスタイルが定着しそうだ。

 また、代購も新たなもうけの道として、正規の輸入業者との連携を模索する。代購歴5年で2000人の顧客を抱える洪運来さん(30)は最近、輸入業者が中国まで商品を輸入した後、その一部を買い取る手法に切り替えた。輸入業者はコンテナなどで大量に仕入れるため調達コストが低いほか、税の優遇措置もある。代購が日本の小売店で直接買うよりも割安に商品を調達できるため、「利益率は低くても、収入は安定する」とみる。

 中国の調査会社、艾瑞諮詢によると、15年の越境ECの市場規模は9000億元(約13兆500億円)と前年の5割増で、今年は1兆2000億元になるとみる。為替が再び円安・元高に振れれば、一時的に日本の小売店ににぎわいが戻るかもしれない。それでも、これまでのように大量に商品を買い込む中国人の姿はあまり見られなくなるだろう。

中国でのめまぐるしい動きで消えた売り上げを「中国経済の減速」「為替変動」というお決まりの理由で片付けるのは簡単だ。そもそも、日本に来るような中間層の所得水準は依然として伸びている。高級ブランド品などは世界中どこでも買え、為替メリットがはげ落ちるのは時間の問題だった。こうした理由を経営者が挙げても、自らの努力不足への言い訳にしか聞こえない。

 中国企業が作った商品の品質がすぐに向上することは考えにくく、日本の商品を求める中国人は今後も増えるだろう。中国で手軽に買えるようになるとはいえ、当然、種類は限られる。日本の小売りやメーカーには日本でしか手に入らない商品をそろえるなど、新たなインバウンド需要を生み出す余地はまだまだ残っている。

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