農村の「小康社会」実現、発展持続を左右
2016-07-26 14:43:39 From:日本経済新聞 コメント:0 クリック:
中国の食糧政策の長期にわたる基本的な目標は、食糧の安全を確保すること、農民の収入安定と成長を続けることの2つだ。中国の食糧政策は、すでに顕著な成果を上げた。食糧生産高は12年間増え続け、農民の収入も急速に増加した。
だが、最近は中国内の農業生産コストが急速に上昇し、農産物の価格は国際市場より全体的に高くなっている。このため、食品加工業者は農産物の輸入を増やす傾向にあり、「輸入品が市場へ流入して、国産品は倉庫に入る」という現象が起きている。
中国産の農産物を最低価格や臨時買い取り価格で調達しても、調達価格を上回る価格で販売できないため、倉庫に積み上がる状況が生じている。穀類や食用油を保管する企業は、かつてなく大量の食糧在庫を抱え、保管にかかる費用や貸付利子の補助は、財政の重い負担となっている。第13次5カ年計画の現在、中国はまさに食糧政策の重大な転換点を迎えており、食糧安全保障政策を改革する必要に迫られている。
■市場主導の価格形成メカニズム構築を
食糧安全保障と農民の利益確保は、引き続き将来の政策の基盤となる。今後、食糧を確保する政策の重点は、インフラ改善を通じた農地の生産性向上や保管技術などの技術革新において、総合生産能力の向上に尽力すべきだ。
第13次5カ年計画の期間中、食糧の増産継続だけを追求するのではなく、食糧の需給状況に基づいて各年の生産量に増減の幅を持たせて、一部地域では耕作地の輪作や休耕を試行する。ただし、生産能力の強化や向上を図り、緊急時の食糧生産や供給を確実に保証できるようにすべきだ。基本的な穀物の自給自足と絶対的な食糧安全保障は確保しなければならない。
長期的には、主な農産物について市場が主導する価格形成の仕組みを整えていく必要がある。農産物の価格と補助金制度を分けて考え、農民が市場の需給メカニズムに基づいて栽培する品種の構成を調整するよう導くべきだ。同時に、農民が損失を受けないよう保証することも大切だ。農家を補助する具体的な制度や政策を打ち出し、順調に実施することが、食糧安全保障政策が成功するかどうかのカギを握る。
主な農産物の供給を保障するための課題は、生産量だけでない。さらに重要なのは、農産物の「質の安全」だ。生産方法の質の向上や効率化は、食品の安全に影響する重要な要素となる。生産地の環境保護や河川の源流管理を強化し、化学肥料や農薬の使用量は厳しく抑制しなければならない。
農地から食卓に届くまで、農産物の品質と食品の安全管理システムを整備し、すべての工程を相互に共有できるオンライン上の情報網を構築し、標準的システムの整備を強化し、リスク監視の評価と検査・検証システムの整備を早期に実現することが大切だ。
新たな農業経営主体の育成に力を入れることも、重要なポイントとなる。中国の巨大な人口に比べて、耕作地は広くない。農業経営は、ほとんどが極めて小規模だ。約2億人の農業人口のうち、自らの土地を耕作する小規模農家が大多数を占める。農業に従事する労働力の大半は高齢化し、技能の素地に欠ける。このことが現代的な農業発展の足かせとなっている。
ただ農村には少数ではあるが、大規模な専業農家や家族経営の農場、農民合作社、農業企業など、さまざまな新しい農業経営主体も生まれつつある。現在、家族経営を基礎とする混合型や、多様な農業経営組織、多元化した農業経営主体も出現している。
農業経営主体の構成は多数の伝統的な小規模兼業農家(小農家)と、さまざまな新しい農業経営主体が併存する。これに伴い農業経営の方式も、主に自ら消費する伝統的な小農業と、高いレベルに市場化や専門化、商品化した現代型の大農業が存在する。今後もこのような多様な農家が併存する構造は続くだろう。
大規模な専業農家や家族経営の農場主、合作社の代表、農業企業家などは、生産経営型の新たな専業農民だ。彼らの素養や能力を向上させ、現代的な農業発展の主力に育てることが重要だ。適当な規模の農業経営を奨励し、新たな経営主体を育成し、農村労働力の転換や、都市化と工業化の進展に適応させていくべきだ。
新たな経営主体の周辺には、億単位の小農家が存在する。彼らは生産活動を通じて自身の食糧を確保し、農村社会の安定と発展に貢献している。彼らの利益追求も重視する必要があり、彼らの生産経営活動を現代的な農業発展に取り込んで、発展がもたらす利益を配分しなければならない。
ほとんどの農村では、単純な農地の併合によって農業経営の大規模化を図ることは不可能だ。たとえ、農業従事者が現在の半数に減ったとしても、農業労働者一人当たりの耕作地は20ムー(約1.3ha)にも満たない。
「人口が多いのに、耕作地面積は少ない」という中国独特の事情もあり、商工業の資本が農業生産分野に直接入り込んで、広く農地を借り上げるような経営モデルも主流にはならないだろう。中国の農業はサービスの社会化によって経営規模を拡大し、専門化を進めて生産の集約度を高めるしかない。農民の組織化を高めて市場参入のコストを引き下げ、第1次から第3次産業までの融合を通じて農業のサプライチェーンを広げるのだ。
■「脱貧困」に向けて支援制度や組織の改革を
中国政府は15年、貧困層に分類される農村の約7000万人について「20年までに貧困からの脱出を実現し、すべての貧困県をなくし、地域的な貧困問題を解決する」という目標を掲げた。具体的な政策措置として、産業支援により約3000万人、就業転換により約1000万人、居住地域の移転により約1000万人、合計で約5000万人を貧困から脱出させる計画だ。残る約2000万人に上る労働能力を失った貧困層については最低の生活水準を制度で保障し、社会保障政策による脱貧困を実現する方針だ。
貧困層の支援には、援助の方向や効率を高める必要がある。支援対象を正確に把握し、しっかり照準を合わせてこそ、彼らが支援プログラムや資金などの利益を受けることが可能になり、脱貧困策の効果を得ることができる。しかし、貧困者の中には能力の不足によって、支援プログラムや資金を有効に活用できないケースも多い。
このため支援制度や実行する組織を改革する必要がある。政府は、新たな農業経営の主体と契約を結んで、彼らが効果的に支援プログラムや資金を利用することを認めるべきだ。それにより貧困層が支援政策による実益を受けられるようになるだろう。
貧困層の支援を的確に実施するためには、総合的な一体化した改革措置が求められる。けっして単独で進めてはならない。国務院の貧困者支援開発指導グループがまとめたデータによると、「病気」が貧困に陥る最も大きな要因となっている。
的確な貧困者の支援と、医療救助によって貧困から脱出する仕組みの改革を効果的に融合させ、貧困者支援の開発と社会保障という両輪を駆動させて、地域問題の解決と的確な貧困者支援を同時に推し進めるべきだ。特に、貧困者への教育を重視し、貧困地域の子供たちが良好な教育を受ける環境を整えて、親から子に続く貧困の連鎖を断ち切らなければならない。
都市と農村の格差をなくし、都市と農村の一体的な発展を実現することは、世界最大の発展途上国である中国が直面する重大歴史的任務といえる。数億に上る農民の生活を改善し、「小康社会」を実現すれば、中国経済の発展を大きく促し、公平で公正な社会の実現に大きく寄与するだろう。

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