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「中国的経営」に国際的関心
2016-08-15 15:20:24   From:日本経済新聞社   コメント:0 クリック:

90年代以降 大きな変化も 若林直樹 京都大学教授
近年の中国経済の急速な成長と中国企業の激増のために、中国的経営に関する研究に国際的な関心が高まってきている。
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 中国企業は、2010年代に入っても年間10%以上の企業数、資本金額の成長を示している。14年には約1678万社となり、日本の企業数(約410万社)に比べても4倍である。そのために海外からの投資先としてだけではなく、海外に直接投資する主体としても、中国企業の経営モデルが国際的に関心を集めている。

 今春の京都大学での国際経営学会議における劉顯仲・国立台湾科技大学教授の報告によると、2000~15年までのアジア太平洋地域での経営研究に関わる主要国際研究雑誌20誌での論文数において、中国を対象とした研究は4割を超える。

 ただ、ジョン・チャイルド・英バーミンガム大学教授らの指摘によると、中国は、新興経済国では政治が比較的安定しているものの、経済・市場・経営制度が未成熟なので、中国的経営に関する研究領域には偏りが見られる。

 劉教授らも、中国的経営、人事管理・組織行動、経営国際化の研究などは盛んだが、企業の財務、統治などの領域は、企業情報開示への信頼が確立してないのでまだ多くないと指摘する。経営原理やヒト・組織の行動に関する研究が多い。

 まず、中国的経営論の一つの特徴として、中国における企業経営モデルは、欧米と経済や文化の環境が異質で、欧米の経営モデルや理論が必ずしも当てはまらないので、独自の異質の経営理論が必要だという見方が根強い。

 アン・ツイ・米アリゾナ州立大学名誉教授は、その代表者である。彼女は、中国には5000年の歴史があり、その経営文化も独自であるので、中国的経営の研究から東洋的な独自経営モデルの理論や分析手法が創造できるとする。たとえば、欧米では個人主義・業績主義が重視されるが、中国では集団主義・平等主義的な側面が強い。

 彼女らのグループは、中国企業の社長のリーダーシップに関する大規模調査を行った。儒教主義、経済改革、共産主義哲学という3つの要因がその発達に影響しており、先進的、権威的、進歩的、潜在的という中国独自の4類型が見られると主張する。

 これに対して、戦略論を研究するジェイ・バーニー・米オハイオ大学教授らのように批判的意見もある。彼らは、中国独自の経営現象はさほど多くなく、中国特有の経営理論が生まれる領域は限定されると疑念を呈する。

 中国特有の経営理論として、とりわけ「関係主義」は、中国的経営を理解するキーワードとして国際的に注目されている。「関係(グワンシ)」は中国独自のビジネス・ネットワークを指す研究用語として英語でも国際的に定着している。

 これは、ビジネスにおいては、儒教などの中国的価値観を基盤とする親密な個人的関係が重要な働きをすることを指す。就職、営業、新規事業、経営の資金や資源の調達、紛争解決、政府との関係などで、人脈が重要になる。

 チャオ・チェン・米ラトガース大学教授らは、中国的経営における「関係主義」研究を総括して、経済・市場の制度が未成熟なため、経営問題を解決するには、個人的関係がまだ機能していることと指摘する。

 ただ、その関係も近代化されてきている。従来は、親族、友人、地縁などの伝統的関係を基盤にしていたが、近年は、大学、職場での上司、同僚関係、ビジネスでの協力関係などの近代的な社会関係を基に形成されてきている。そのために、関係への投資もより個人的、目的志向でドライになってきている。

 1980年代の改革開放以降、中国の産業化と外国企業進出が進んだので、中国的経営の研究は当初、「世界の工場」としての中国におけるヒトや組織の行動や管理の研究、つまり人的資源管理論や組織論での研究比重が高かった。近年、中国の経済と企業の発展に伴い、研究テーマも変化してきている。

 ファンリー・クック・英マンチェスター大学教授は、2000年代前半までの中国の人事管理研究を概観している。彼女は、新興経済としての急速な成長の中で、中国の労働者が示す個人や組織での態度や行動が中国独自である面も認めつつ、時代や世代とともに急速に変容してきたと述べる。

 古い世代では、集団主義で儒教的価値観が基盤だったが、若い世代では、利益志向でリスク志向への変化が明確に見られる。また、人事職能の専門性が未発達だったので、人的組織としての競争力が高くなかったが、今後はこの発達が中国企業の競争力向上に影響すると考えている。

 さらに、外国企業の雇用慣行や組織ノウハウの中国移転の取り組みについての関心も強い。ジョス・ギャンブル・英ロンドン大学教授によれば、移転が進められる中で、中国社会独自の経営文化や雇用慣行に合わせて、一定の現地化や、母国と中国の経営を折衷する動きが見られる。ことに、日系企業の場合には、欧米企業よりも文化距離が近いために、そうした傾向が強く見られる。

 そして近年、国際的に最も関心を集めるのが、中国企業の海外直接投資とそれによる中国的経営の海外移転である。チャイルド教授らは、中国政府の政策を受けて2000年代に加速した中国企業の海外直接投資と経営移転について研究している。

 中国企業は11年に約170カ国へ進出しているが、国有企業が多数を占め、政府の積極的支援を受ける。そして先進国と発展途上国への進出では、異なる傾向が見られる。

 まず先進国では、市場への浸透だけではなく、先進の技術やノウハウの獲得を目的とする。他方で、資源が豊富な発展途上国に対しては、資源獲得と産業開発をめざす直接投資が見られる。特にアフリカ諸国では、100万人を超える人材も派遣し、開発自体を中国人材が担う場合も多い。

 中国的経営の海外移転は、受け入れ国や買収企業に与える影響について近年注目されている。先進国での直接投資では、米中間で見られるように、ハイテク領域での投資に対して国益上の政治対立だけではなく、受け入れ国の経営文化に対する一部の中国経営者の理解の低さも問題となっている。中国経営者の行動スタイルが、先進国に合わせて現地化を進めるのか、中国スタイルにこだわるのかに今後の関心が集まる。

 日本でも、中国のハイアールによる旧三洋電機の一部事業買収のように、中国企業による直接投資の事例も増えてきている。今後は、中国企業主導による日本企業の買収や提携が増えるので、日本でも中国的経営の移転が焦点となるだろう。

 ただ、中国的経営は、急速な経済成長と社会変化だけではなく、企業自体の成長と変化を通じて、1990年代以降、大きく変容している。ギャンブル教授は、国、制度、文化による違いにだけ注目する従来の文化論が曖昧かつ総論的で、限界があると批判する。

 一口に中国企業といっても、産業、地域、世代、所有形態などによって経営スタイルが異なる。今後はそうした観点から一層精密な分析と整理が必要である。

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