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日本企業のインド進出支援、州政府との直接交渉に活路
2016-05-23 10:31:47   From:日本経済新聞   コメント:0 クリック:

日本企業のインド進出を支援するため、土地や優遇措置などを巡る難題を州政府との直接交渉で解決しようという動きが本格化してきた。
 日本企業のインド進出を支援するため、土地や優遇措置などを巡る難題を州政府との直接交渉で解決しようという動きが本格化してきた。経済産業省は、情報技術(IT)都市バンガロールを擁する南部カルナタカ州との間で土地取得を巡る紛争回避を目指す新たな覚書(MOC)に調印。隣接するアンドラプラデシュ(AP)州では経産省と日本貿易振興機構(JETRO)が中心となって「AP州官民協議会」を設立、港湾都市クリシュナパトナム周辺での日本企業向け工業団地開発をはじめ、同州が進める新州都アマラバティの建設などインフラ整備や産業支援で協力を拡大していく。

 

2016年4月末、インド南部・アンドラプラデシュ州のスリ・シティ工業団地内で開いたいすゞ自動車新工場の開所式(アンドラプラデシュ州政府提供)

2016年4月末、インド南部・アンドラプラデシュ州のスリ・シティ工業団地内で開いたいすゞ自動車新工場の開所式(アンドラプラデシュ州政府提供)

 外国企業のインド進出には、工業団地造成や各種優遇措置の決定などで大きな権限を握る州政府との連携が不可欠。日本は経産省やJETROなどが先頭に立って各州との交渉に当たり、産業・インフラ協力を通じて日本企業の立地を後押しする。

■土地紛争は州政府の責任で解決

 バンガロール郊外トゥムクルのバサンタ・ナルサプラ工業団地は、日系企業に優先的に土地を割り当てる「日本工業団地」の1つに指定されている。経済産業省とカルナタカ州政府が2月にバンガロールで開いた企業誘致イベントで調印した新たな覚書には、同工業団地内で日系企業に割り当てる用地について、(1)整地済みで境界線が明確な土地を提供する(2)土地取得を巡って紛争が生じた場合には、州政府が最優先で責任を負う(3)州政府は紛争解決のため必要なすべての手段を講じる――などと明記された。

 

 

 インドでは工場建設などに伴う土地取得を巡り、農民など元地権者が後から異議を申し立てて事態が紛糾するケースが続発している。地権者に手厚い補償を盛り込んだためプロジェクトの阻害要因となっている現行の土地収用法も、改正を目指す国会審議が難航し、産業・インフラプロジェクトを加速させる上でのネックとなっている。

 州政府が「土地問題」解決に最優先で責任を負うという異例の覚書には法的拘束力はないものの、経済産業省では「進出する日本企業にとっては安心材料となる」(南西アジア室)と歓迎している。 野村総合研究所の又木毅正・上級コンサルタントはこうした日本への手厚い配慮を「これまでの進出実績が評価され、各州が日本企業の誘致で競争し始めた結果」と分析。「インフラ整備の確実性などに懸念は残るが、州政府と直接交渉できるのはインドの連邦制の長所」と話す。

■新州都建設にも協力へ

 AP州では、民間の巨大工業団地スリ・シティなどがある州南端地域と港湾都市クリシュナパトナムの間のエリアが、「日本工業団地」の対象地域に指定されている。同州では製造業だけでなく、運送業や農業・食品関連産業まで幅広い企業進出を期待する。経済産業省などは5月末にも同州に現地視察ミッションを送り、案件の早期具体化を目指す。

 2014年に古都ハイデラバードなどを含む旧AP州北西部地域がテランガナ州として分離独立したため、AP州では新州都アマラバティの建設に着手。日本はすでにアマラバティの都市交通など、インフラ整備への協力を表明している。今年3月には千葉・幕張メッセなどの設計で知られる建築家・槇文彦氏が同市官庁街のデザイン・コンペで最優秀賞を獲得した。今後正式な契約を経て州の政府ビルや議事堂、高等裁判所などの設計を担当する見通しで、こちらも話題を呼びそうだ。

 インドでは1950年代、フランスの著名建築家ル・コルビュジェが同国北部の連邦直轄都市チャンディガルの中心街を設計している。

■日本企業、南部州に続々進出

 

「日本工業団地」に指定されたバンガロール郊外・トゥムクルのバサンタ・ナルサプラ工業団地(カルナタカ州工業団地開発庁提供)

「日本工業団地」に指定されたバンガロール郊外・トゥムクルのバサンタ・ナルサプラ工業団地(カルナタカ州工業団地開発庁提供)

 カルナタカ、アンドラプラデシュ両州はともに南部の有力州で、近年日本企業の進出が拡大している。カルナタカに進出した日系企業の工場・営業所などの拠点数は2015年10月時点で451と、インド全体の約10%に達している。AP州にも110拠点が開設済み。最近では16年1月に東芝三菱産業システムがバンガロールの新工場でモーターなどの生産を開始し、太陽光発電向けインバーターの工場も建設中。いすゞ自動車は16年4月、スリ・シティに新工場を完成させたばかり。

 南部2州政府と日本の関係強化は、企業立地の加速やインセンティブ供与などのサービス向上につながるだけでなく、他の有力州にも日本企業誘致テコ入れの動きが広がると期待されている。

 カルナタカ州などにおける「日本工業団地」計画の進展に刺激されたインド中部マドヤプラデシュ州では昨年10月、同州のシブラジ・シン・チョウハン首相(県知事に相当)自らが経済産業省とMOCを締結、同州西部のピタンプル工業団地を12カ所目の「日本工業団地」に追加指定することで合意した。

 地方発の新たな日印協力は、ビジネス難易度の高いインドでの事業展開にとって大きな追い風となりそうだ。

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