「センサーだらけ」の自動運転車、低コスト化の行方
2016-05-27 09:30:19 From:日本経済新聞 コメント:0 クリック:
「使えるLiDARはないかと、完成車メーカーが血眼になっている」(業界関係者)――。自動運転車の実用化が近づき、これを実現するための車載センサーの開発が活発化している。
特に、LiDARと呼ばれるレーザーレーダーの開発に、多くの企業が新たに参入している。自動運転の実用化に必須のセンサーと言われながら、現行の製品は高コストでサイズも大きく、市販車に積めるような“代物”ではないからだ。メガサプライヤーから異業種の企業まで、成長市場に食い込もうとしのぎを削っている。
■高速道路だけなら不要
現在、ADAS(先進運転支援システム)に使う車載センサーの主流は、ミリ波レーダーとカメラである。一部の低コストな自動ブレーキにはLiDARが使われているが、これは前方の車両との距離だけが分かる簡易的なものだ。
これに対して現在各社が開発を進めているのは、物体までの正確な距離だけでなく、その位置や形まで検知できる、より高性能・高機能のLiDARである。その代表的なものが、米Google(グーグル)をはじめとして、完成車メーカー各社が自動運転の実験車両に使用している米Velodyne(ベロダイン)のLiDARである。
これはレーザー発信器を取り付けたヘッドを回転させ、車両の周囲360度をスキャンして物体からの反射光を検知し、周囲の物体との距離や形状を把握するものだ。しかしこのLiDARは価格が数百万円と、とても市販車には使えない。
実は、高速道路の自動運転だけなら、LiDARは必ずしも必須ではない。2016年3月7日に開催された富士重工業の「次世代スバル」に関する発表会で、同社は2016年内に発売予定の新型「インプレッサ」から採用を始める、次世代プラットフォームを公開した。それとともに、ステレオカメラを用いたADAS「Eyesight(アイサイト)」の進化を今後どう進めていくのかについても方針を示した。
この中で、同社は2020年に高速道路・複数レーンでの自動運転技術を実用化することを発表した。「お客様のお求めやすい価格で商品化する」(同社スバル技術本部車両研究実験第4部部長の樋渡穣氏)との方針から、ステレオカメラに加えて、クルマの四隅に24GHz帯の低コストな準ミリ波レーダーを取り付けるだけの簡素な構成にする方針だ。これなら、現行のアイサイトと、コストはそう変わらない。
■一般道だとLiDARが必須の理由
一方で、日産自動車が2018年、トヨタ自動車やホンダが2020年に実用化を表明している高速道路・複数レーンでの自動運転ではLiDARを搭載するとみられる。高速道路上での自動運転だけが目的なら、富士重工業のように、LiDARなしでも自動走行は可能である。あえて大手3社がLiDARを搭載するのは、その先にある一般道路での自動運転をにらんでいるからだ。
日本の完成車メーカーで唯一、2020年に一般道路での自動運転の実用化を表明しているのが日産だ。同社の電子技術・システム技術開発本部ADAS&AD開発部部長の飯島徹也氏は、LiDARは二つの意味で必須だという。
一つは、現在位置を知る機能だ。高速道路中心の自動運転なら、現在位置はGPS(全地球測位システム)をベースに把握することが可能だ。GPSによる位置検出には10m程度の誤差があるが、高速道路の走行中なら、前後方向の10m程度の誤差はあまり問題にならない。また左右方向の誤差は、車線をカメラで認識することで修正できる。
ところが一般道路では、現在位置の把握が格段に難しくなる。一般道路では車線が消えかかっているところや、交差点のように途切れているところもあり、車線だけを頼りに横方向の位置精度を修正することはできない。また前後方向についても、10mも位置誤差があったら、右左折の位置が大きくずれてしまう。さらに、一般道路では建物の影に隠れて、GPS信号を受信できないような状況も増える。
このため一般道路を自動走行するためには、建物やガードレールといった道路周囲の物体の形状までを織り込んだ「3次元地図」がどうしても必要になる。LiDARで車両周辺の物体の形状を把握し、その形状と、3次元地図を照らし合わせながら、自車両が3次元地図上で今どこにいるのかを把握することが必要になるからだ。
そしてLiDARが必須なもう一つの理由が、周囲の物体との正確な距離測定である。一般道路では、狭い場所の通り抜けなど、周囲の物体との距離を正確に測りながら走行する状況が頻繁にある。そのためには「数cm単位」で周囲の物体との距離を測定できる車載センサーが必要だが、現状のカメラやレーダーでは実現は難しい。かといって超音波センサーでは距離測定が可能な距離が5m程度と短い。一般道路での走行を可能にする測定精度を実現するのには、LiDARがどうしても必要なのである。
■クルマが「センサーだらけ」になる
もっとも、LiDARを搭載すれば、その他のセンサーが不要になるということでもない。LiDARが検知できる範囲は、通常100m以内で、それ以上遠くはレーザー光が減衰するため難しい。また、雨や雪など、悪天候になると検知範囲はさらに狭くなる。しかし、高速道路などを走行する場合には200m以上遠くの物体を検知する必要があり、ミリ波レーダーも必須だ。
しかし、ミリ波レーダーは物体との距離は把握できても、その物体の形状は分からない。LiDARならその物体の形状は分かるが、その物体が何なのかを把握する能力には限界がある。標識や道路表示を読み取ることもできない。このためカメラの搭載も必要だ。三つの種類のセンサーの分担について日産の飯島氏は「大雑把に言えば、遠くの物体を検知するのがミリ波レーダー、近くの物体を検知するのがLiDAR、そして物体のコンテクスト(文脈)を理解するのがカメラ」だと説明する。
図1 日産自動車の自動運転実験車両のセンサー配置。車両の周辺監視用の近距離カメラ4個、前方監視用の3眼カメラ3個、後方監視用、後側方監視用×2、側面監視用×2の中距離カメラの合計で12個のカメラを搭載する。加えて、前後左右4個のLiDAR、車体の4隅+前方監視用の5個のミリ波レーダーを備える
それでは、一般道路での自動運転を実現するのにどれだけのセンサーが必要になるのか。メーカーや予測機関によって違いがあるので一概には言えないのだが、日産が市街地での自動運転の実験車両に搭載しているセンサーの数は、12個のカメラ、4個のLiDAR、5個のミリ波レーダーと、合計21個にも上る(図1)。
日産が一般道路での自動運転車を実用化すると表明している2020年に向け、車載センサーの市場は大幅に拡大していく見通しだ。矢野経済研究所は、ADASに使う車載センサーの市場が、2014年の3000億円規模から2020年にかけて9000億円規模へと3倍以上に膨らむと予測する(図2)。これはADAS用向け以外のセンサーに比べて大幅に高い成長率だ。
■センサー同士で互いの機能をカバー
センサーの数が増加するのは、それぞれのセンサーに得意・不得意があり、それを補い合うのが目的だが、もう一つの目的は「冗長性の確保」にある。あるセンサーが機能を失ったり、測定ミスや誤動作を起こしたりしても、他のセンサーでその機能をある程度カバーすることを狙っているのだ。
例えば、ADASに使われている車載カメラの画素数は、現在は130万画素程度のものが中心だが、2018年には200万画素を超え、2020年以降には700万画素に達すると見られている。その目的は、本来ならミリ波レーダーが担当する遠くの物体までの距離測定を、カメラでもある程度できるようにすることだ。
現在の130万画素のカメラでは、水平画角が50度程度なので、200m先の車両の画像の横方向の解像度は、車両の幅が1.7mくらいの場合で、11画素分程度である。イメージセンサーでは一般に10画素以上ないと車両として認識できないと言われており、この解像度はぎりぎりだ。画素数を増やせば、それだけ解像度が向上し、遠方の物体が何であるかをより正確に検知できるようになるだけでなく、物体までの距離計測の精度も上がる。
「ミリ波レーダーにも同様の要求がある」と、ボッシュでドライバーアシスタンス部門AD技術部ゼネラルマネージャーを務める千葉久氏は語る。本来は遠い物体との距離を測るのが得意なミリ波レーダーにも、近い物体との距離を正確に測ることや、物体の位置を正確に把握することが求められているというのだ。
前方の物体との距離を、3種類のセンサーで測定できるようになれば、仮に一つのセンサーが、測定ミスや誤動作で異常な測定値を出力したとしても、残りの二つのセンサーとの「多数決」で異常値を排除できる。システムの堅牢性や信頼性を向上させるためにも、それぞれのセンサーのカバー範囲を拡大することが求められている。
■LiDARはどこまで低コストになるか
各センサーのカバー範囲を広げるための性能向上と並んで課題になっているのが、低コスト化だ。1台のクルマに搭載するセンサーの数が増えれば、一つひとつのセンサーには低コスト化に対する要求が強くなる。
市販車に搭載するためのコストは、「100ドル」(1ドル113円換算で1万1300円)が一つの目安になっている。2014年時点では2000~8万ドル(同22万6000~904万円)と極めて高価なLiDARだが、低コスト化でこの水準を目指すと明言するメーカーも現れ始めた(図3)。
ミリ波レーダーはすでに50~150ドル(同5650~1万6950円)と、従来から大幅な低コスト化が進んだが、向こう5年ほどの間に、さらにコストは半減しそうだ。現在は化合物半導体のSiGe(シリコン・ゲルマニウム)を使っている送受信チップを、Siを使ったCMOS(相補型金属酸化膜半導体)技術で代替する動きが進んでおり、これが実現すると周辺回路まで1チップ化できるので、大幅な低コスト化が可能だ。
この両者に比べると、現在100~200ドル(1万1300~2万2600円)のカメラは、主要部品であるイメージセンサーがすでに数百円レベルになっており、これ以上のコスト低減の余地は少ない。むしろ現状のコストを維持したまま高画素化する、実質的な低コスト化が進みそうだ。
(オートインサイト 鶴原吉郎)
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