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トヨタ、AIに託す未来
2016-06-09 11:05:17   From:日本経済新聞   コメント:0 クリック:

 トヨタ自動車が人工知能(AI)研究にアクセルを踏み始めた。自動運転車を実現するため米国に研究開発会社を新設し、米グーグル傘下のロボット会社買収も狙う。高品質なものづくりで世界の頂点を極めた巨人トヨタ。最先端のAI技術を吸収し、どう生まれ変わろうとしているのか。

(編集委員 村山恵一)

 5月初め、晴天のシリコンバレー。AI研究を担うトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)のオフィスを訪ねると、社内で突然声をかけられた。

 「ここで働けて興奮しているよ」。ジェームス・カフナー。米カーネギーメロン大学准教授で、グーグルのロボット部門長だった有名人だ。TRI社内を歩くと、AIやロボットの一流研究者に次々出会う。

 「今は陣容を拡大中。数カ月で広い拠点に移る」。現れた2メートル近い長身の男性は、最高経営責任者(CEO)のギル・プラット(54)。米マサチューセッツ工科大学(MIT)出身で米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)プログラム・マネージャーの経歴を持つロボット界の大物だ。トヨタがAI研究の命運を託した人物である。

 自動車産業の歴史の転換を予感させる出来事は2年前に起きた。2009年から自動運転車を開発するグーグルが独自設計の試作車を公開したのだ。運転者用のハンドル、アクセル、ブレーキは一切なし。ボタンを押せば目的地に着く。20年ごろの実用化をめざすとぶちあげた。

 トヨタは1990年代から自動運転を研究していたが、運転をすべて機械に委ねることには慎重だった。「需要はあるのか」「実用化はまだ先だろう」。だが、グーグルの開発加速やAI技術の進展を受け、社内で急速に危機感が高まる。

 14年1月、開発を推進する組織をつくり体制整備に着手した。狙いはズバリ「どうすればグーグルに勝てるか」。問題は人材だった。「AIをやりたい人にトヨタは全く魅力的に映っていない。求心力のあるリーダーが必要だ」。先端技術担当の専務役員、伊勢清貴は思い知る。

 15年6月4日、伊勢はロサンゼルス郊外にいた。DARPA主催のロボット競技大会の決勝会場だ。「これを逃せば二度とチャンスはない」。大会を仕切るプラットをつかまえスカウトする契約を交わした。最初の面接から3カ月弱の早業だった。

 「大きな財産になる」。トヨタ社長の豊田章男は11月に開いたTRI設立の記者会見で、プラットをそう紹介した。投じる資金は5年で約10億ドル。社員は200人以上を見込む。

 プラットが率いる研究体制は会社の枠を超えて広がる。

 TRIから車で数分のスタンフォード大学も協力先のひとつ。グーグル創業者の2人が学んだ由緒あるビルにAI研究所はある。画像解析、水中ロボット。所内には近未来技術が並ぶ。

 「トヨタとの共同研究は教授だけで15人がかかわる破格の規模だ」。プラットの友人で、所長のフェイフェイ・リは言う。トヨタはMITとも協力し両大学で計30のプロジェクトが走る。TRIの助言組織には掃除ロボット「ルンバ」の生みの親や、米フェイスブックのAI研究所長ら豪華な顔ぶれがそろう。

 豊富な人脈を支えに、AIでどんな未来図を描こうとしているのか。「22~23年に成果をみせたい」。プラットはTRI本社で構想の一端を明かした。

 まず自動運転車。手がけるのはグーグルが力を注ぐ完全自動に限らない。事故の危険を察知したときだけAIが運転に介入する技術も用意する。「必要時のみ作動すればよく、開発の問題を簡潔にできる」。少しずつ技術を高める手法だ。

 ロボットもつくる。TRIの入り口には「鉄人28号」の人形が飾ってある。プラットが子供のころ夢中になったキャラクターだ。「テツジンは物語のなかで何度も世界を救った。高齢化する世界は家庭用ロボットが救う」。高齢者が自宅で過ごしやすいよう移動を助ける。そんなイメージを思い描く。

 それだけではない。「全ての部品情報をビッグデータとして集めて解析すれば、車の設計を改善できる」と、トヨタのお家芸である生産システムにもメスを入れる。「リスクをとってこそ報われる。TRIにDARPAの哲学を持ち込みたい」

 走り出したAI研究。グーグルに勝つ体制は整ったのか。「(AIという)頭脳の競争ではまだ負けているかもしれないが、最終的に車に仕上げる力が我々にはある」と伊勢は語る。

 米ウーバーテクノロジーズとの提携や、グーグルのロボット子会社買収交渉など、自前主義を脱し広く外部に新たな価値を求めるトヨタ。AIを極められれば、「優良カーメーカー」の枠を超えたビジネスモデルの革新にたどりつく。


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